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行動経済学が教える投資家心理を熟知しよう

 

(画像=PIXTA)

以下の取材記事は金融ライターK氏が執筆したものです。その内容について当社が保証するものではありません。

 近年、投資分野で大きな注目を集めているのが「行動経済学」です。行動経済学とは心理学の知識やデータから人間の経済行動を分析する学問のことです。1996年に始まった金融自由化とインターネットの普及により、日本国内でも資産形成にチャレンジする個人が、飛躍的に増えました。ただ、投資には必ずリスクがともないます。消費者保護の観点から、銀行や証券会社などの金融機関は、個人でも十分な金融知識やリテラシーを持てるよう、さまざまな取り組みを行ってきました。しかし、十分な金融教育を受けていても、受けていない人とあまり変わらない行動をとってしまうことが明らかになっています。なぜそのようなことが起きてしまうのか、その理由を解明する鍵を握るのが「行動経済学」です。

人は誰でも目前のリスクや損失を回避したい

 「人間は損得がともなう判断を迫られると、必ずしも合理的な行動を取るとは限らない」。これがアメリカの心理学者のダニエル・カーネマンとイスラエルの心理学者のエイモス・トベルスキーが心理学に基づく現実的な経済理論として展開した「プロスペクト理論」の主張です。これにより、カーネマンは2002年にノーベル経済学賞を受賞しました。

 プロスペクト理論では投資に影響を及ぼす3つの心理状態に言及しています。その中でも重要なものが「損失回避性」です。

たとえば、次の2択のうち、あなたならどちらを選びますか?

(1)100%の確率で50万円がもらえる

(2)50%の確率で100万円がもらえる

多くの人たちが「(1)100%の確率で50万円がもらえる」を選択します。

この二つの選択肢を、確率的に得られる金額の平均値である「期待値」で比較してみます。

期待値=「発生する値」×「その発生確率」で求められます。

(1)50万円×1(100%)=50万円

(2)100万円×0.5(50%)=50万円

両方ともに50万円になるので、客観的にいえば(1)も(2)も同じなのです。

続いてこの場合はどうでしょうか?

(1)100%の確率で50万円を損する

(2)50%の確率で100万円を損する

 多くの人たちが(2)を選びますが、実際に計算してみると、期待値は両方とも同じ50万円になります。

 プロスペクト理論によると、「人間は同じ金額の利益を得たときの喜びよりも、同じ金額を失うときの悲しみを強く感じる」のだそうです。そして、損と得との差は約2倍で、損失に対する恐れが、意思決定に大きく作用していることが分かります。

 だから、人は損得勘定を働かせなければならない場面において、「目の前の50万円を逃したくない」という気持ちから、50%の確率で「100万円がもらえるかもしれない」という可能性を捨て、「まったく何ももらえない」という「リスク」を回避してしまうのです。

 そして、その逆に「確実に50万円を失う」という「損失」を受け入れたくないから、損失額が2倍になる「100万円を失う」という可能性があっても、「50万円は失わないで済むかもしれない」という「50%の確率」に賭けてしまうのです。

人は物事の価値を相対的に測ろうとする

 プロスペクト理論が示す重要な心理状態の2つ目は「参照点依存性」です。参照点依存性とは絶対的な水準ではなく、自分が設定した基準(参照点)からどれくらい変化したかで価値を判断しようとする心理のことです。

 たとえば、所持金0円の人と所持金100万円の人が、投資で30万円を失ったとします。100万円の人は30万円を失っても、まだ70万円が残っていますが、0円の人は30万円の負債を負うことになります。二人は30万円という同じ金額を失いました。しかし、二人が抱く悲しみの大きさは違います。0円の人は100万円の人よりも大きな「悲しみ」を感じるのです。人間は相対的に物事の価値を判断します。だから、悲しみを感じるベクトルの角度に差ができます。

 たとえば、”100円均一”ショップに買い物に行って、自分の欲しい商品に300円の値札が付いていたら、ちょっと割高に感じますよね。ところが、コンビニで同じような商品が300円で売っていても、「割高だ」とは思わないでしょう。これも自分が設定した基準点から、その価格が高いか、安いかを判断しているからです。

人は金額が大きくなると損得の価値判断が鈍感になる

 プロスペクト理論における3つ目の心理状態は「感応度逓減性」です。これは利益額や損失額が大きくなると、人間は価値増減の心理的なインパクトが薄れてしまうというものです。

 コンビニで1,000円のお弁当が200円値引きされていたので、800円でお昼ご飯が食べられました。あなたは、きっと「得」した気分になるでしょう。でも、家電量販店で10万円のパソコンが9万9,800円で販売されていても、きっと「お得」な印象を受けないはずです。値引額は同じ「200円」です。これが「感応度逓減性」というものです。

行動経済学の知識を生かそう

 ここまで行動経済学の基礎となるプロスペクト理論が主張する3つの重要な心理状態について説明してきました。個人投資家として大切なことは、この理論を自分の投資行動にどのように生かすかです。

1)コツコツドカン防止
 コツコツドカンは、まさに「損失回避性」の心が引き起こした現象でしょう。目先の利益を失いたくないという気持ちから、本来は利益を伸ばすべき局面なのに、「コツコツ」と利益確定を繰り返して、十分な利益が取れない。また、目の前の含み損を確定したくないという気持ちから損切りができず、相場の急変で「ドカン」と損失を出してしまう。対策としては、明確な損切りルールを設定して、ドカンという損失を防ぎましょう。テクニカル分析を学習して、エントリーに十分な根拠が持てるようになるのも、「コツコツ」の回数を減らすのに有効です。

2)時間軸を切り替えてポジション確認
 たとえば、FX投資では自分のエントリーポイントから為替レートが上昇もしくは下落することで、利益が出たり、損失が出たりします。当然、エントリーポイントを基準に相場を見てしまいがちですが、これは「参照点依存性」に大きな影響を受けています。短期的には下落していても、中・長期的には上昇トレンドかもしれません。時間軸を切り替えて、短期だけでなく、中・長期でも相場を見るようにすることで、「参照点」に依存しがちな心をコントロールしましょう。

3)レバレッジは抑えめに
 「感応度逓減性」の影響から、金額が大きくなればなるほど、金銭感覚は鈍感になります。損失が出ると、ポジションを大きくしたり、ポジションをたくさん持って、その損失を早く取り戻そうとしがちですが、ハイリターンを狙うと、同時にハイリスクも伴います。損失を出してしまったときこそ、さらに大きな損失を出さないような対応が必要です。必ず有効比率を確認して、レバレッジのかけすぎに注意してください。

 さて、今回は行動経済学のプロスペクト理論で唱えられている3つの重要な心理について解説してみました。投資では必ず損得が発生します。心理的な要因から投資判断を間違えることがないようにするうえで、行動経済学の知識は大変役立ちます。行動経済学に関する書籍もたくさん出ています。興味を持たれた方は、ぜひご自身でも研究してみてください。

(本文ここまで)

ライターK
大学卒業後、テレビ制作会社に勤務、NHKや民放局の報道番組でディレクターを務める。その後、出版業界に転じて金融・経済誌の編集者や記者として、政治・経済・金融などの記事制作に携わってきた。現在はフリーで活動中。FX歴は10年以上。実際にポジションを持って、FXトレーダーたちのトレード手法を確認する日々を送っている。