【外為総研 House View】
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 調査部長 神田卓也
目次
▼ユーロ/円
・ユーロ/円の基調と予想レンジ
・ユーロ/円 10月の推移
・10月の各市場
・10月のユーロ/円ポジション動向
・11月のユーロ圏注目イベント
・ユーロ/円 11月の見通し
ユーロ/円
ユーロ/円の基調と予想レンジ
ユーロ/円 10月の推移
10月のユーロ/円相場は158.372~166.692円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約3.4%上昇した(ユーロ高・円安)。もっとも、ユーロは対ドルで約2.3%下落。すなわち、ユーロ/円の上昇はドルに対するユーロ安を凌ぐ円安によるものだった。ユーロは域内インフレの鈍化やドイツ経済の先行き不安を背景に欧州中銀(ECB)の利下げ観測が高まる中でドルに対して下落。ただ、ドイツの景況感がECBの利下げ期待を支えに予想ほど悪化しなかったことから円ほどには下落しなかった。円は石破首相の利上げに後ろ向きな発言(2日)や、27日の衆院選で自民・公明の与党が過半数割れとなったことで全面的に下落。31日には166.69円前後まで上昇して7月31日以来の高値を付けた。ただ、この日は日銀が政策金利を0.25%に据え置いた上で、植田総裁が早期の追加利上げの可能性を排除しなかったことから円を買い戻す動きとなったため、165円台に押し戻されて10月の取引を終えた。
始値 | 高値 | 安値 | 終値 |
159.878 | 166.692 | 158.372 | 165.425 |
出所:外為どっとコム「外貨ネクストネオ」
1日
ユーロ圏9月消費者物価指数(HICP)・速報値は前年比+1.8%と市場予想通りに前月(+2.2%)から伸びが鈍化した。エネルギーや食品などを除いたコアHICPは前年比+2.7%だった(予想+2.7%、前回+2.8%)。イランによるイスラエルへのミサイル攻撃の影響も相まってユーロ安・円高に振れた。
2日
石破首相が植田日銀総裁との会談後に「現在は追加利上げをするような環境にはないと思っている」と発言したことを受けて円が全面安となった。
8日
独8月鉱工業生産は前月比+2.9%と市場予想(+0.8%)を大幅に上回った。ただ、7月分は-2.4%から-2.9%へ下方修正された。
10日
ECBは9月理事会の議事録を公表。「今後(の金利)については、発表されるデータが基本シナリオに沿ったものであれば、段階的に景気への制限を緩和していくアプローチが適切だろう。同時に、調整のスピードについてはオプショナリティー(選択性)を維持すべきだ」「インフレ問題が解決したと完全には確信できないため、現在は段階的かつ慎重なアプローチが適切だと思われる」として慎重に利下げを進める姿勢を示した。
15日
独10月ZEW景気期待指数は13.1と市場予想(10.0)を上回り、前月(3.6)から上昇した。欧州経済センター(ZEW)は、指数の上昇要因として「インフレ安定化の見通しと、それに伴うECBの追加利下げ観測」を挙げた。
17日
ECBは大方の予想通りに政策金利(預金ファシリティ金利)を3.50%から3.25%に引き下げた。声明では「物価に関するデータは、インフレの抑制が順調に進んでいることを示している」とした上で「目標を達成するために必要な限り、金利を景気抑制的な水準に維持する」と表明。今後の金融政策については「データに基づき、会合ごとに判断する」との姿勢を維持した。その後ラガルド総裁は会見で「成長へのリスクは依然として下振れ方向に傾いている」としつつも「リセッション(景気後退)は想定していない」「我々はソフトランディングを見込んでいる」と述べた。
23日
オランダ中銀のクノット総裁は、ECBの今後の利下げについて「景気見通しが著しく悪化しない限り、標準的な25bpを上回る規模の利下げは検討しないだろう」と述べて大幅利下げに否定的な見解を示した。続いて、オーストリア中銀のホルツマン総裁も「現在の経済環境は12月会合での50bp利下げを正当化しない」との見解を示した。一方、ポルトガル中銀のセンテノ総裁は「我々が注視してきたデータが示すトレンドを見る必要がある」とした上で「50bp(の大幅利下げ)は確実に選択肢になり得る」と発言した。他方、フランス中銀のビルロワドガロー総裁やドイツ連銀のナーゲル総裁は、12月の利下げ幅についてはあらゆる選択肢にオープンだとした上で、いずれも「データ次第」の姿勢を強調した。
24日
独10月製造業PMI・速報値は42.6と市場予想(40.8)を上回った。同サービス業PMI・速報値も51.4と市場予想(50.6)を上回った。独10月総合PMI ・速報値は48.4となり、前月(47.5)から上昇した。直前に発表された仏PMIが予想を下回ったことでユーロ売りが先行していただけに、独PMIの発表を受けてユーロを買い戻す動きが出た。なお、その後に発表されたユーロ圏10月製造業PMI・速報値は45.9、同サービス業PMI・速報値は51.2(予想45.1、51.5)だった。
25日
独10月IFO企業景況感指数は86.5と前回(85.4)から上昇し、市場予想(85.6)も上回った。IFO経済研究所は「ドイツ経済は落ち込みにいったん歯止めをかけることができた」との見解を示した。同時に発表されたECBの9月調査による1年インフレ期待は+2.4%と前回(+2.7%)から低下。3年先のインフレ期待も+2.1%に低下した(前回+2.3%)。
31日
ユーロ圏10月HICP・速報値は前年比+2.0%と前月(+1.7%)から加速。市場予想(+1.9%)を上回った。エネルギーや食品などを除いたコアHICPは前年比+2.7%で前月から横ばいだった(予想+2.6%)。
10月の各市場
10月のユーロ/円ポジション動向
【情報提供:外為どっとコム】
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11月のユーロ圏注目イベント
ユーロ/円 11月の見通し
市場は欧州中銀(ECB)の12月利下げについて25bp(0.25%ポイント)を確実視。50bpの大幅利下げを織り込む動きも一部に見られる。ユーロ圏のインフレが鈍化基調となる一方で、中核国のドイツを中心に景気が冴えないことが市場の利下げ観測に繋がっている。こうした利下げ観測は11月のユーロ相場の下押し要因になり得ると見るが、ドイツの景気は10月にいくぶん持ち直しの動きを見せたことから、11月に発表される景況感関連の経済指標の結果を確認したい。12日の独11月ZEW景況感調査や、22日の独11月購買担当者景気指数(PMI)・速報値、25日の独11月Ifo景況感指数などに注目だ。もっとも、仮にこれらが改善してもドイツ経済が良好とされる領域(たとえばPMIの50.0以上など)に上昇する公算は小さい。したがって、ユーロ相場を押し上げる力はそれほど強いものにはならないだろう。反面、景況感が再び悪化すればECBの大幅利下げを巡る思惑が高まりユーロ相場の押し下げ圧力となろう。11月のユーロ/円相場は、ドイツを中心に域内景気の動向がカギになると見る。その他、11月5日の米大統領選もユーロ/ドル相場とドル/円相場を通じてユーロ/円相場の変動につながる公算が大きい。現状では民主党のハリス氏と共和党のトランプ氏が歴史的な接戦を演じており、結果は予断を許さない。仮にトランプ氏が勝利すればドル高(ユーロ安、円安)が進む公算が大きいが、欧州に対して安全保障や貿易の面でより厳しい姿勢をとると見られることから、ユーロには円以上の売り圧力がかかり、ユーロ/円は下落する可能性があると見る。ハリス氏勝利の場合は、ユーロと円に対するドル安圧力はいずれも比較的マイルドになると見ており、ユーロ/円には中立と見ておきたい。
(予想レンジ:160.000~169.500円)
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神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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