FX初心者はしばしば、「ポジポジ病」に陥りがちです。「ポジポジ病」とは、トレーダーが常に取引をしてしまう状態のことです。根拠のないエントリーや損失を取り返すための無理なエントリーで不用意な損失を重ね、FXが続けられなくなるかもしれません。なぜ私たちは「ポジポジ病」にかかってしまうのでしょうか。今回はその原因と対策について考えます。
ポジポジ病はなぜ起こる
FXの取引用アプリを立ち上げてチャートを見ていると、どちらに相場が動くのか、確たる自信もないのにポジションを持ってしまうことがありませんか?
「この瞬間にも誰かが儲けている」
「早く損失を取り戻したい」
「もっとたくさん利益を出したい」
投資経験のある人なら、一度は心の片隅に芽生えたそんな気持ちから、ついついボタンを押して、ポジションを持ってしまった経験をお持ちでしょう。これが「ポジポジ病」です。
誰にでも起こる病
この「ポジポジ病」はFX初心者に限った「病」ではありません。それは人間の心に起因する問題だからです。こうした行動や心理状態は、「行動経済学」の分野のひとつ「行動ファイナンス」の研究から、いくつかのパターンに分類することができます。ここでは代表的な4つの概念を紹介しておきます。
(1)損失回避バイアス(プロスペクト理論)
人間は利益を得たときの喜びよりも、同額の損失を被ったときの悲しみを強く感じる傾向にあるため、大きな損失を抱えていると、「損切り」ができなくなり、逆に大きな損失を出すと、低い確率にもかかわらず、大きな利益が得られる「一発逆転」に賭けてしまうのだそうです。人間はある損失額を超えた瞬間、「リスク回避」から、積極的に損失を取り戻そうとする「リスク選好」に心理状態が変化します。「チキン利食い」や損切りが遅くなる理由がこれです。
(2)代表性バイアス(ベイズ定理)
「いいこと」が続けて起こると、また「いいこと」が起きると期待する心理です。投資で言うと、初めて買った個別株で利益が出ると、株価上昇の状況ではないのに、その個別株だけは上昇し続けると考えてしまったり、土地価格が上昇していると、「土地価格は必ず上昇する」という「土地神話」が生まれたりします。固定観念が個人の判断に影響を及ぼしているのです。
(3)近視眼的投資行動(時間非整合割引率)
将来のことよりも現在の関心事を重視してしまう心理です。長い目で見れば損するにもかかわらず、「直近の労力や負担を避けたい」という気持ちから、つい不利益な行動を選択してしまうようなケースが当てはまります。投資した時点から終了するまでの時間が長ければ長いほど、こうした傾向は強まるそうです。
(4)群集行動(ハーディング現象)
人間は周りにいる多くの人たちと同じ行動を取りやすい傾向にあります。「横並び行動」とも呼ばれます。他人が購入した物が欲しくなる心理です。横並び行動は、必ずしも自分にとって合理的な選択をしている保証はありません。バブル経済末期に投資未経験者までが株を購入した現象は、この「群集行動」の表れです。
このように人間は常に合理的な意思決定を行うわけではありません。「ポジポジ病」というトレード行為のみならず、「サブプライムローン問題」など、多くの消費者が巻き込まれた金融問題や事件でも、こうした人間の心理が大きな要因となっていることから、昨今「金融リテラシー」や「金融教育」の大切さが強く説かれるようになっています。
「ポジポジ病」を防ぐ対処法
さて、経験の浅いFX初心者にとって一番大切なのは、「どうしたらこの『ポジポジ病』を防げるのか」ということです。そのために一番効果的な方法は「明確なトレードルールを守る」ということです。
(1)トレードスタイルを決める
まず自分のトレードスタイルをひとつに絞りましょう。超短期売買のスキャルピングなのか、一日単位でポジションを持つデイトレードなのか、それとも数週間ポジションを持つスイングトレードなのか。どういうトレードスタイルが自分の性格やライフスタイルに適しているのか、一定期間はひとつに絞って試してみましょう。
おそらく「ポジポジ病」の場合は、短期売買になっているケースが多いと思います。しかし、会社勤めだったり、主婦だったり、ほかに「本業」がある人は、専業トレーダーではないので、スキャルピングをするための十分な時間が取れないのではないでしょうか。無理せず、余裕を持ってできるトレードスタイルを選ぶようにしましょう。
(2)最大ポジション数とロット数は少なく設定
投資資金にもよりますが、同時に保有するポジション数とロット数を決めましょう。ロット数とは取引量の単位です。1ロットは1,000通貨だったり、10,000通貨だったり、FX会社で異なります。ちなみに外為どっとコムの場合は1ロット=1,000通貨です。 FX初心者は最大ポジション数もロット数も少なめに設定して、それを超えないようにしましょう。なぜかというと、レバレッジが高くなりすぎることが防げるからです。ハイリターンのトレードはハイリスクです。大きな損失が出ないようすることが大切です。
(3)取引通貨ペアを増やしすぎない
FXでトレードできる通貨ペアはたくさんありますが、それぞれに特徴があります。流通量が多く値動きが比較的安定的な「メジャー通貨」と流通量が少なく値動きが大きい「マイナー通貨」では動き方が違います。また、米ドル/円やユーロ/米ドルのような米ドルとの組み合わせの「ドルストレート」と、米ドルを含まないユーロ/円や豪ドル/円のような「クロス通貨」のように、組み合わせによっても特徴は違うのです。
トレードする通貨ペアの特徴を掴むためにも、継続的な相場分析が必要になります。手当たり次第に通貨ペアを選んでポジションを持つのではなく、トレードする通貨ペアも絞るようにしましょう。
(4)トレードの時間帯を限定
専業トレーダーでもない限り、トレードできる時間帯には限りがあります。会社員は勤務時間中にトレードはできませんし、専業主婦の方は、家事や育児をしながらでは、落ち着いてトレードすることはできないでしょう。例えば、会社員の方なら「平日の夜、帰宅後の9時から12時まで」というように、落ち着いて相場と向き合える時間帯に限定してトレードしてみてはどうでしょうか。時間の使い方にもルールを設けるのです。
(5)相場分析の材料と手法を選択
エントリーポイントの判断、利益確定の決済や損切りの決済の判断をするためには、ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析が欠かせません。しかし、相場の分析手法にはさまざまなものがあるため、あまりに多くの分析手法を使うと、かえって混乱してしまう可能性があります。自分にあった分析手法を探し、それに基づいてトレードするような習慣をつけましょう。
ここでご紹介した5つのルールは、すべて自分自身で決定できるものです。このように明確なルールを設けると、エントリー機会はかなり限定されるはずです。このような方法で「ポジ」っと非合理的な選択してしまう回数を減らしましょう。
損失を最小限に抑える逆指値注文を入れる
「ポジポジ病」の最大の問題は、根拠もなくエントリーしたポジションで「ドカン」と大きな損失を出してしまうことです。それを防ぐためには、エントリーしたら、必ず「逆指値(ストップ)注文」を入れて、損失額を限定してください。
損切りラインは自分が許容できる金額やPips数で決めます。1円なら1円、10Pipsなら10Pipsと毎回必ず同じように入れましょう。なお、IFD注文やOCO注文のような複合注文を利用すれば、エントリーと同時に損切り注文が発注できます。
さて今回は「ポジポジ病」の原因とその対処法について考えてみました。「ポジポジ病」は人間の心に原因があるわけで、誰でもかかってしまう可能性のある「病」です。FX初心者に起こりがちなのは、経験が浅く、明確なトレードルールが確立できていないからです。まずは自分でコントロールできることからルール作りを始めましょう。また、大きな損失を出さないようにするために、ポジションを持ったら、必ず「損切り」のための逆指値(ストップ)注文を入れるようにしましょう。
ライターK
大学卒業後、テレビ制作会社に勤務、NHKや民放局の報道番組でディレクターを務める。その後、出版業界に転じて金融・経済誌の編集者や記者として、政治・経済・金融などの記事制作に携わってきた。現在はフリーで活動中。FX歴は10年以上。実際にポジションを持って、FXトレーダーたちのトレード手法を確認する日々を送っている。
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