「毎日何度もトレードを繰り返し、利益も出してきたはずなのに、一回の損失で資金が足りなくなって、FXができなくなってしまいました。一生懸命にトレードして、うまくいっていると思っていたんですが、いったい私の何がいけなかったんでしょうか?」
長年FX取引をしていると、そんな「ぼやき」を聞かされることがあります。話の内容からすると「コツコツ」と獲得してきた利益が、大きな損失で「ドカン」となくなってしまったということですが、こういう「失敗」が起きた一番の理由は、「チキン利食い」をしてしまい、一回のトレードで十分な利益を確保できていなかったことにあります。FX初心者に起こりがちな「チキン利食い」について考えてみます。
「チキン利食い」とは
そもそも「チキン利食い」とは利食いのタイミングが早すぎることを言います。後から見ると、本当はもっと利益が増やせるような場面だったのに、「目の前の利益を失いたくない」という気持ちから、わずかな利益にもかかわらず、ポジションを決済してしまうことを指します。あなたにもそんな経験があるのではないでしょうか。
例えば、こちらのドル/円チャートを見てください。白い「マル」で囲まれたポイントで「買い」ポジションを持ち、少し上昇した次の「マル」で売ってポジションを決済、利益を確定しました。しかし、その後、再びドルは上昇していますから、もう少し後で決済するのが理想で、より大きな利益が獲得できる可能性が十分にありました。
「チキン利食い」をする人は「損切り」ができない
また、「チキン利食い」をしてしまう人は「損切り」も苦手なケースが多いようです。自分の予想と異なる方向に相場が動いて、ポジションが含み損となったとき、自分のエントリーミスを認めることができずに、早めに損切りをしなかったり、「また戻ってくるだろう」という根拠のない期待を抱いたりして、さらに深みにはまり、さらに大きな金額で損切りをせざるを得なくなったり、ポジションが強制ロスカットされたりします。
こちらの事例は、相場がもっと上昇すると思い「マル」のポイントで「買い」エントリーしましたが、そこを頂点に相場は反落してしまいました。本来は、次の「マル」のポイントまでに損切りすべきでしたが、損失が受け入れられず、ポジションを持ったままでいたところ、いったん相場は戻したものの、エントリーポイントまでは戻り切らずに、今度は急落してしまいました。その結果、耐えきれずに「底」で売って、「ろうばい売り」をしてしまい、大きな損失を出してしまったというものです。
人間は経済合理的な判断ができない
「チキン利食い」と「遅い損切り」は人間の心理に起因しています。人間は「損失を避けたい」という思いから「合理的ではない選択」をしてしまいがちです。これは行動経済学の「プロスペクト理論(※1)」で説明されています。
※1 心理学者ダニエル・カーネマンと心理学者・行動経済学者エイモス・トベルスキーが1979年に提唱した行動経済学の理論。2002年にノーベル経済学賞を受賞している。目の前にある利益に対して、「利益が手に入らない」というリスク回避を優先し、目の前の損失に対して「損失そのものを回避しよう」という人間の「損失回避性」という傾向を明らかにした。
「チキン利食い」は、「相場が自分のエントリーポイントよりも下がって、損失するかもしれない」という不安な気持ちから、急いで決済してしまい、十分な利益を獲得することができなかった結果です。一方で「損切りが遅い」のは、可能性は低いのに確率を過大評価してしまい、「ひょっとしたら戻るかも」という期待を抱いてしまったからです。この心理的な問題を解消しない限り、「チキン利食い」は解決しません。
「リスクリワードレシオ」で「チキン利食い」を判断
まず、自分が「チキン利食い」をしているかどうかを調べましょう。それには「リスクリワードレシオ(ペイオフレシオ)」が利用できます。
「リスクリワードレシオ(ペイオフレシオ)」とは「損益比率」のことです。計算式は以下の通りになります。
リスクリワードレシオ(ペイオフレシオ)=平均利益÷平均損失
簡単に説明すると、数値が「1(倍)以上」になれば、取引の際、「損失よりも利益が多く」、逆に数値が「1(倍)以下」になると、「利益よりも損失が多い」ということになります。
1)「チキン利食いではない」
「リスクリワードレシオ>1(倍)」・・・「損切りよりも利食いが大きい」
2)「チキン利食い」
「リスクリワードレシオ<1(倍)」・・・ 「利食いよりも損切りが大きい」 というような見方をすることができます。
トラックレコードでチェック
自分の「リスクリワードレシオ(ペイオフレシオ)」は、FX会社が用意しているトラックレコードで簡単に確認できます。
こちらは外為どっとコムの「外貨ネクストネオ」のトラックレコードです。これを使うと、年単位、月単位、日単位で、自分の取引結果を表示することができます。
こちらは2024年の1月〜4月(10日)現在までの月次のトラックレコードです。一番右側にある「リスクリワードレシオ(ペイオフレシオ)」で「チキン利食い」をしているかどうかが確認できます。ご覧の通り「リスクリワードレシオ」はいずれも1倍以下の数値となっています。毎月「チキン利食い」をしてきたということです。
外貨ネクストネオのトラックレコードより このFXトレーダーの実現損益は、4月現在で合計5,241円の「黒字」です。 結局、「チキン利食い」は利益確定のタイミングが早く「利を十分に伸ばせていない」だけで、必ずしも「赤字」になるわけではありません。ただ効率の低い運用をしているので、「ドカン」と大きな損失が出ると、簡単に「赤字」になってしまうでしょう。
「チキン利食い」の解消方法
大切なことは「チキン利食い」を解消することです。
リスクリワードレシオ(ペイオフレシオ)=平均利益÷平均損失
先述した計算式からも明らかなように、「平均利益」が「平均損失」を上回れば、「損切りよりも利食いが大きい」ということになり、リスクリワードレシオは1倍を超えます。つまり、「(1)『チキン利食いではない』」ということになります。
つまり、もっとも効果的な方法は「早い損切り」をすることなのです。そのためにはポジションをエントリーしたら、すぐに損切り注文を入れましょう。
1)逆指値(ストップ)注文
エントリーレートよりも不利なレートをエントリー直後に指定する注文です。「買い」ポジションのレートが下落したら、「売り」注文、「売り」ポジションのレートが上昇したら「買い」注文で「損切り」します。その際、FXの通貨単位で「〇〇pips」や価格の「〇〇銭」のように、自分が許容できる損失で値幅を設定します。
2)IFD注文
IFD注文を使えば、指値で新規注文と決済注文を自動で同時発注できます。「〇〇円になったら新規で買い、その後反対方向に動いたら〇〇円で損切りする」というような使い方をします。IFD注文を利用すると、最初から損失を限定することができます。
3)IFO注文
IFO注文は指値で新規注文とふたつの決済注文を自動で同時に発注できるものです。相場が予想通りになれば利益確定の注文でポジションが決済され、反対方向に動いたら損切り注文でポジションが決済されます。
こうした「損切り」注文を入れておくことで、損失を最小限に抑えることが可能になります。さて、今回はFX初心者にありがちな「チキン利食い」という失敗について考えてみました。繰り返しになりますが、「チキン利食い」にならない一番の方法は「損切りを早くする」ということです。投資で大切なことは「損小利大」にすることです。「コツコツドカン」で退場しなくていいようなトレードを日頃から心がけるようにしましょう。
ライターK
大学卒業後、テレビ制作会社に勤務、NHKや民放局の報道番組でディレクターを務める。その後、出版業界に転じて金融・経済誌の編集者や記者として、政治・経済・金融などの記事制作に携わってきた。現在はフリーで活動中。FX歴は10年以上。実際にポジションを持って、FXトレーダーたちのトレード手法を確認する日々を送っている。
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