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混同されやすい「CFD」と「信用取引」は何が違う?

(画像=PIXTA)

以下の取材記事は金融ライターK氏が執筆したものです。その内容について当社が 保証するものではありません。

 投資初心者の中には、しばしばCFDと信用取引を混同しているような人が見受けられます。ふたつの金融商品はよく似た特徴を持っていますが、同じものではありません。CFDと信用取引の違いはどこにあるのでしょうか。CFDと信用取引を比較しながら、CFDという金融商品のメリット・デメリットについて考えてみます。

CFDと信用取引の共通点

 CFDと信用取引が混同されやすい理由はよく似た特徴を持っているからです。それは、(1)「レバレッジを使った取引ができるので、少額資金で大きな利益が狙える」(2)「『買い』ポジションだけじゃなく『売り』ポジションが持てるので、相場が下落する局面でも利益が狙える」(3)「一日に何度でも同じ銘柄を回転売買できる」ことです。確かにその通りなのですが、ふたつはまったく別の金融商品です。

CFDは「金融派生(デリバティブ)」商品

 個人投資家はCFDに投資する場合、CFD会社から借りた資金を担保に、レバレッジを効かせて 個別株、株価指数、金や原油などを売買します。その際、CFDは株式や金などを、実際に受け渡しするわけではなく、それらを「原資産」とする「別」の金融商品を売買し、取引開始時点と終了時点の価格差で発生した損益だけを受け渡します。CFDは「金融派生(デリバティブ)」商品なのです。

 これに対して信用取引は、CFDでも取引ができる個別株やETF(上場投信)などを売買しますが、こちらは証券会社からお金を借りて株式を買うだけでなく、証券会社から株式を借りて売ります(空売り)。その株式の所有権は投資家が持っているので、ポジション決済の際、証券会社との間で損益だけを受け渡しするのではなく、実際に購入した株式をそのまま受け取ったり(現引き)、借りて売った株式で返済したり(現渡し)することができます。

 つまり、同じ個別株式やETFに投資しているようでも、CFDが「現物」で取引されている原資産から派生した「別商品」を売買しているのに対して、信用取引は「個別株式」や「ETF」そのものを売買しているのです。これがCFDと信用取引の一番の違いでしょう。

CFDと信用取引を比較してみよう

 さて、CFDと信用取引が同じではないことが分かったとしても、実際に大切なことは、具体的な違いです。まずCFDと信用取引を一覧表で比べてから、各項目でその違いを確認します。

CFDと信用取引の違い

項目 CFD 信用取引
(1)レバレッジ 5〜20倍 2〜3.3倍
(2)ポジション 「売り」「買い」の両方 「売り」「買い」の両方
(3)取引銘柄 (国内外)個別株、(国内外)株価指数、商品(原油、天然ガス、金、銀など)、ETFなど 国内証券取引所もしくは証券会社が選定した日本の個別株やETF(上場投信)および米国株
(4)取引時間 平日のほぼ24時間 平日の取引所取引時間
(5)取引期限 なし 6カ月以内(※1)
(6)取引方法 相対取引(※2) 取引所取引
(7)取引コスト スプレッド 売買手数料
金利調整額 金利
権利調整額 貸株料
価格調整額 品貸料
  管理費など諸経費
(8)保証金 あり あり
(9)追証&ロスカット あり あり

※1 取引所の規則に定められた貸借銘柄・貸借融資銘柄を売買する制度信用取引の場合。証券会社が独自に定めた銘柄を売買する一般信用取引は証券会社が定めた独自の期限になる。

※2 東京金融取引所で売買できる「クリック株365(取引所CFD」を除く

(1)高倍率レバレッジはCFD

 CFDのレバレッジは銘柄やCFD会社によって異なります。個別株CFDは5倍、株価指数CFDは10倍、金や原油などの商品CFDは20倍に設定しているところが多いようです。FXは最大25倍(個人投資家)ですから、それよりも少し低めの設定になっています。

 一方の信用取引は基本的に3.3倍で、2022年より取引が可能になった米国株の信用取引については2倍までとなっています。簡単に言うと、「CFDは信用取引よりも少額資金で大きな利益が狙える効率の高い運用が可能」ということです。  

(2) 信用取引の「現引き」と「現渡し」

 CFDは”Contract for Difference”の略で、日本語では「差金決済取引」といいます。一定額の保証金を担保にCFDの会社から資金を借りて、有価証券などの実際の売買は行わずに、買ったときと売ったときの差額だけを受け取ったり、支払ったりします。  

 信用取引もCFD同様に差金決済です。なお、信用取引は担保として保証金だけでなく、国債、地方債、上場株式などの有価証券も使えます。ただ、信用取引で売買する株式の所有権は投資家が保有することになるので、証券会社から借りた資金や株式を返済する際、信用取引特有の方法が選択できます。

証券会社から担保を元手に資金を借りて株式を買った場合 (1)「株式を『転売』して借りた資金を返却」 (2)「購入株式の代金を返却して、現物を引き取る『現引き』」

証券会社から株式を借りて売った場合 (3)売っていた株式を買い戻して返済、差益を受け渡し (4)借りた株と同じ銘柄を同数で引き渡して返済し、売却代金を受け取る「現渡し」

信用取引のポジション決済方法

「買い」ポジション
(証券会社から現金を借りる)
(1)「転売」    買いポジションの株式を売却し、借金を返済
(2)「現引き」  自己資金で借金を返済し、株式は受け取る
「売り」ポジション
(証券会社から株式を借りる)
(3)「買い戻し」 売った株式を買い戻し、借りた株式を返済
(4)「現渡し」 借りた株式と同銘柄・同数で返済、売却代金を受け取る

CFDでは、売買している銘柄を所有しているわけではありません。そのため、ポジション決済で信用取引のように、証券会社から借りて売った株式や資金を借りて買った株式を、実際に受け取ることはありません。

(3)CFDは銘柄の種類と数が多い

 CFDは個別株や株価指数だけでなく、金、銀、原油、天然ガスのような商品にも投資することができますが、信用取引は国内取引所に上場している個別株やETFの銘柄、証券会社が選んだ個別株やETF、米国株などで種類や数ではCFDに及びません。

(4)CFDは取引時間が長い

 CFDは銘柄やCFD会社によって多少の違いはあるものの、取引は平日のほぼ24時間可能です。一方の信用取引は、国内銘柄であれば、基本的に取引所が開いている9時〜15時になります。米国株の場合は、基本的に米国市場の立会時間である9時30分〜16時00分(※3)です。

※3 日本時間の23時30分〜翌朝6時。サマータイムは1時間早まる

(5)取引期限がないCFD

 CFDは取引期限がありません。だからポジションをずっと持ち続けることができます。一方、信用取引は、取引所の規則で定められた貸借銘柄と貸借融資銘柄を売買する「制度信用取引」と証券会社が独自に定めた銘柄を売買する「一般信用取引」の2種類があり、「『制度信用取引』のポジションは6カ月以内に決済する」という期限が設けられています。

(6)「相対取引」と「取引所取引」

 CFDは投資家とCFD会社との直接的な相対取引です。投資家はCFD会社に保証金を預け入れ、注文銘柄、数量、価格を決めて、CFD会社との間で売買します。

 一方の信用取引は「取引所取引」です。証券会社から資金や株を借り、レバレッジを効かせて投資家は売買するので、それに見合う担保を証券会社に預け入れ、証券会社を通じて、取引所に上場している株式やETFを売買します。

(7)取引コストに注意

 CFDでは基本的に売買手数料はかかりません。スプレッドと呼ばれる「買値」と「売値」の価格差がコストになります。そのほかにもCFD特有の「金利調整額」「権利調整額」「価格調整額」でコストが発生したり、利益が発生したりします。

CFDのコスト

スプレッド

CFDのスプレッドはFXよりもスプレッド幅が広めです。また、変動スプレッドなので、相場環境でスプレッド幅は広がります。なお、銘柄でスプレッド幅が異なります。

金利調整額

株、株価指数、金、銀など現物を原資産とするCFDで、ポジションを持ち越し(オーバーナイト)することで毎日発生します。市場金利とCFD会社が設定する金利から計算されており、基本的に「買い」ポジションで「支払い」、「売り」ポジションで「受け取り」となります。

権利調整額

株、株価指数など「現物」を原資産とするCFDでは、配当金など株主と同じような権利が発生します。ただ、「買い」ポジションは受け取れますが、逆に「売り」ポジションでは支払うことになります。

価格調整額

原油や天然ガスのような先物を原資産とするCFDで発生します。先物の限月交代で投資家が「損」や「得」をすることを防いでいます。

期近の先物価格<期先の先物価格の場合、「買い」ポジションで支払い 「売り」ポジションで受け取ります。

期近の先物価格>期先の先物価格の場合、「買い」ポジションで受け取り、 「売り」ポジションで支払います。

続いて信用取引で発生するコストです。証券会社からの借金で発生する「金利」と、保有株式に発生する「配当金相当額」以外は、CFDにはないコストが並びます。

信用取引のコスト

売買手数料 信用取引の手数料は証券会社によって異なります。無料にしているところもあれば、約定代金ごとに設定しているところもあります。
金利 信用取引で「買い」ポジションを建てる場合、証券会社から借金をして購入するので、金利(日歩)が発生します。金利は証券会社によって異なり、制度信用取引と一般信用取引でも設定されている金利が異なる場合があります。
貸株料 信用取引で「売り」ポジションを建てる場合、証券会社から株を借りて「空売り」します。そのときに株を借りる費用です。証券会社によって、貸株料は異なります。また、制度信用取引と一般信用取引で料金が異なる場合があります。
品貸料(逆日歩) 制度信用取引で、市場で貸借される株式が不足すると、売りポジションの場合、支払いが必要になる費用。買いポジションの場合は品貸料を受け取ることができます。
管理料など諸経費 管理費:新規ポジションの約定日から1カ月ごとにポジションごとに管理費が発生します。
名義書換料:権利確定日を超えて買いポジションを保有しているときに発生します。
配当金相当額:株式の配当金支払い時期に、権利確定日を超えてポジションを保有している場合、買いポジションでは受け取り、売りポジションでは支払うことになります。

 CFDと信用取引で同じ銘柄が購入できる場合は、レバレッジの倍率に違いがあるので、一概に運用成績を比較することはできません。しかし、同じ運用期間で、どちらのコストが大きくなるかは計算してみるべきでしょう。長期運用ではコストが運用成績に大きな影響を及ぼします。口座開設の重要な判断材料になるでしょう。

(8)口座維持のための必要保証金

 CFD、信用取引ともにレバレッジを利用して、実際の資金よりも大きな取引をすることができます。そのために必要な金額の保証金を差し入れて、あらかじめ決められた口座維持率を下回らないようにしなければなりません。

 CFDでは銘柄ごとに口座が区分されます。区分ごとにポジション評価額が算定され、区分ごとに必要保証金が決まります。それぞれの口座を維持するために、有効比率が100%を下回らないようにする必要があります。

 一方、信用取引の委託保証金率は約定代金の30%以上、委託保証金額は30万円以上と法令で定められています。なお、現金以外に担保として差し入れる代用有価証券の担保評価は、種類や銘柄で異なるので、現金換算率の確認が必要です。また、国内株と米国株で委託保証金率は異なります。

(9)「追証」と「ロスカット」に注意

 CFD、信用取引ともに、「追証」と「ロスカットがあります。CFDでは基本的に有効比率が100%を下回りそうになると、追加の保証金(追証)を求められます。そして100%を切ると強制的に反対売買を行ってポジション決済(ロスカット)が行われます。

 信用取引も、取引開始に必要な委託保証金30万円、委託保証金維持率30%を割り込むと「追証」と呼ばれる追加保証金を求められます。そして、信用維持に必要なラインを超えると強制的に反対売買を行ってポジション決済(ロスカット)が行われます。なお、国内株と米国株では維持率に違いがあります。

CFDと信用取引は競合しない

 よく似た特徴を持つCFDと信用取引ですが、それぞれにメリット・デメリットがあるまったく別の金融商品です。このように項目を分けて細かく比較してみると、たくさんの違いがあることが分かります。さて、あなたが「いいな」と思ったのは「CFD」でしょうか?それとも「信用取引」でしょうか?いずれにせよ、投資は大切な自己資金で行います。自分が納得できた金融商品を選ぶようにしましょう。

 

ライターK
大学卒業後、テレビ制作会社に勤務、NHKや民放局の報道番組でディレクターを務める。その後、出版業界に転じて金融・経済誌の編集者や記者として、政治・経済・金融などの記事制作に携わってきた。現在はフリーで活動中。FX歴は10年以上。実際にポジションを持って、FXトレーダーたちのトレード手法を確認する日々を送っている。

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