以下の取材記事は金融ライターK氏が執筆したものです。その内容について当社が 保証するものではありません。
CFDとFXはよく似た特徴を持つ金融商品とされています。ただ、共通点は多くても、「瓜ふたつ」というわけでもありません。CFDとFXにはどのような違いがあるのでしょうか。ふたつを比較しながら、CFDという金融商品の特徴について考えてみましょう。
CFDとFXの共通点
(1)いずれも「差金決済取引」
CFDは”Contract For Difference”の略です。日本語では「差金決済取引」といいます。「差金決済取引」は、実際に「現物」を売買することなく、「新規」と「決済」の価格差が利益や損失になります。そのため「現物」の売買に必要な資金を全額用意する必要がありません。これはFXと同じです。なぜかと言えば、FXは「外国為替」を投資対象にしたCFDだからです。FXはたくさんあるCFDの中のひとつなのです。
(2)「証拠金取引」でレバレッジが効く
CFDやFXのような「差金決済取引」では、取引で損失が生じた場合でも、確実に決済ができるように、あらかじめ一定額のお金を口座に預け入れます。この「担保」になる資金を「証拠金」や「保証金」と呼びます。CFDは「証拠金取引」なので、「レバレッジ」を効かせた運用が可能になります。簡単に言えば、レバレッジ5倍なら、10万円で50万円、10倍なら10万円の資金で100万円の取引ができます。
(3)「追証(おいしょう)」と「強制ロスカット」
CFDやFXでは、保有ポジションが常に時価で評価されています。そのためポジションの損失額が膨らんだときは、口座が維持できるように、追加で証拠金を差し入れなければなりません。これを「追証(おいしょう)」と言います。さらに予想とは反対方向に相場が急進して、決められた基準を含み損が超えた瞬間、ポジションを自動決済する「強制ロスカット」が発動されます。
(4)手数料はスプレッドのみ
CFDもFXも取引手数料は原則無料です。CFDもFXと同じように「売値(Bid)」と「買値(Ask)」の両方の価格が同時に提示され、この価格差(スプレッド)が実質的なCFDの手数料になります。
(5)24時間取引可能
CFDは平日であれば、基本的にほぼ24時間取引することができます。また、日本が祝日で国内取引所が閉まっていても、海外市場が開いていれば売買することができます。この点も基本的にFXと同じです。なお、投資対象によって取引時間に多少の違いがあります。また、FXよりも取引時間は少し短めです。
(6)申告分離課税
CFDとFXの収益は「雑所得」に区分され、本業の所得とは関係なく、申告分離課税で一律20.315%が課せられます。FXとCFDの両方で投資している人は、例えば、FXで利益、CFDで損失が出ていたら、損益通算により所得額を減らすことができるので、結果的に納税額は低くなります。
CFDとFXの共通点
CFD | FX | |
(1)差金決済取引 | ◯ | ◯ |
(2)証拠金取引 | ◯ | ◯ |
(3)追証&強制ロスカット | ◯ | ◯ |
(4)手数料 |
◯ (原則スプレッドのみ) |
◯ (原則スプレッドのみ) |
(5)24時間取引(※1) |
◯ (FXよりも多少短い。 銘柄により取引時間帯が異なる。) |
◯ |
(6)申告分離課税 (一律20.315%) |
◯ | ◯ |
CFDとFXの共通点 (※1)年末年始や土日を除く
CFDとFXの相違点
このようにCFDとFXは基本的な部分でかなり共通点が多いのですが、ふたつを詳細に比較してみると相違点も少なくありません。
(1)さまざまな投資対象
FXの投資対象が「外国為替」に限定されているのに対して、CFDの投資対象はさまざまです。国内外の「株価指数」「個別株」「金」「銀」「原油」「天然ガス」など、異なる値動きをする商品に少額から分散投資ができます。そのためリスクヘッジを効かせた運用が可能です。
(2)レバレッジ倍率
CFD、FXともにレバレッジを効かせた運用が可能ですが、両者では倍率が異なります。FXで個人投資家が使えるレバレッジの倍率は最大25倍ですが、CFDは投資対象でレバレッジの倍率が変わります。例えば、株価指数〇倍、金〇倍。原油〇倍で、FXよりも低い倍率の設定になっています。
(3)金利調整額(オーバーナイト金利)
CFDでは投資家がCFD会社からお金を借りて「金」や「銀」、「株式」などを購入します。「借金」している以上、そのお金には「金利」が発生します。
そのため投資家は「買い」ポジションを翌日に持ち越した場合、CFD会社に借金している分の「利息」を支払います。これを「金利調整額(オーバーナイト金利)」(※2)と言います。逆に「売り」ポジションを翌日に持ち越したら、CFD会社に貸し付けている分の「利息」を受け取ることができます。
この「金利調整額」は市場金利とCFD会社が設定した金利で決まります。
例えば市場金利が4%、CFD会社が設定した金利が2%の場合、「買い」ポジションを持ち越したら、支払うべき「金利差調整額」は以下のように計算されます。
(支払うべき)「金利調整額」(6%)=市場金利(4%)+CFD会社の金利(2%)
ちなみにFXでは、低金利国の通貨で高金利国の通貨を購入する「買いポジション」を持つと、通貨ペア国の金利差から発生する「スワップポイント(金利差調整分)」を受け取ります。逆に「売りポジション」を持つと金利差分を毎日支払います。
ゼロ金利の日本円で外国通貨を買うと、スワップポイントが受け取れる状況が続いていますから、FX投資家は、「CFDの『金利』の『受け取り』と『支払い』は、FXとは『逆』だ」と感じるのではないでしょうか。
(※2)「オーバーナイト金利」は「現物」を原資産とするCFDだけに発生します。「先物」の価格は「金利」がすでに反映されているので、「オーバーナイト金利」は発生しません。
(4)権利調整額(配当金・分配金)
株式や株価指数に投資するCFDで「買い」ポジションを持っていると、企業が株主に対して「配当金」や「分配金」が支払われた場合、CFDで株式や株価指数を保有している投資家にも、株主が保有している「権利」が付与されるので、「配当金」や「分配金」がもらえます。これは「権利調整額(※3)」と呼ばれています。
注意して欲しいのは、株式や株式指数のCFDで「売り」ポジションを持っていると、「配当金」「分配金」に見合う分の「権利調整額」を支払うことになる点です。このような利益やコストはFXにはありません。
(※3)「権利調整額」は「現物」を原資産とするCFDだけに発生します。「先物」には配当金などの権利は付与されないからです。
(5)価格調整額
価格調整額は「先物」を原資産とするCFDで発生します。先物取引ではあらかじめ決済日が決められています。そのため満期日がきたらポジションが強制的に決済されてしまうので、決済されないようにするために、CFDでは期日が迫った「先物(期近物)」を、次に期日が近い先物(期先物)に乗り換えて(限月交代)、期日を先送りします。保有している先物から別の先物に切り替えるわけですから、当然、価格が異なります。限月交代時の「評価益」「評価損」が価格の変化で変わらないように調整するのが「価格調整額」です。先物ではないFXには「価格調整額」がありません。
限月交代したときに、以下のようなケースが考えられます。
次の限月の先物価格が高い場合(期近の先物価格<期先の先物価格)
・買いポジション・・・評価益が増えるので「価格調整額」を支払う
・売りポジション・・・評価益が減るので「価格調整額」を受け取り
次の限月の先物価格が安い場合(期近の先物価格>期先の先物価格)
・買いポジション・・・評価益が減るので「価格調整額」を受け取り
・売りポジション・・・評価益が増えるので「価格調整額」を支払う
こうすることで限月交代によって投資家が「損」や「得」することがないように調整しています。
(6)スプレッド幅が大きい
CFDとFXではスプレッド幅が違います。ドル/円のように毎日大量に取引されている通貨ペアは、スプレッド幅が狭く、重要指標の発表、災害やテロなどの発生のような出来事、年末年始、早朝のような流動性が少ないときでない限り、スプレッド幅はほとんど変わりません。FX会社によっては、固定スプレッドで提供しているところもあります。 ところが、CFDはすべて変動スプレッドで、スプレッド幅もFXと比較すると広めです。流動性が落ちると大きくスプレッド幅が広がる可能性があります。CFDの売買では、コスト計算がしにくいので、常にスプレッド幅の状況を考慮する必要があります。 なお、CFD会社ごとにスプレッド幅は異なります。スプレッド幅が狭ければ、それだけ取引コストは低くなるわけで、CFD会社を選ぶ上で、スプレッド幅は重要な要素になるでしょう。
CFDとFXの相違点
CFD | FX | |
投資対象(種類) | 株価指数、個別株、金、銀、原油、天然ガスなど多数 | 外国為替のみ |
レバレッジ倍率 |
個別株(テスラ等)5倍、金20倍、原油10倍、株式指数10倍 ※投資対象で倍率は異なるため一例、FXよりも低い |
25倍(個人投資家の場合) |
金利差調整額 |
現物を原資産とするCFD(株、株価指数、金スポット、銀スポットなど)で発生 ポジション持ち越し(オーバーナイト)で毎日発生 市場金利とCFD会社が設定する金利から計算 基本的には以下のようになる 「買い」ポジションで「支払い」 「売り」ポジションで「受け取り」 |
「スワップポイント(金利差調整分)」が毎日発生 基本的に以下のようになる |
権利調整額 |
「現物」を原資産とするCFD(個別株、株価指数など)で株主と同じような権利が発生 「買い」ポジションで受け取り 「売り」ポジションで支払い |
なし |
価格調整額 |
先物を原資産とするCFD(原油、天然ガスなど)で発生 期近の先物価格<期先の先物価格の場合 |
なし |
スプレッド幅 |
FXと比較するとスプレッド幅は広め 変動スプレッドでスプレッド幅は広がりやすい |
「ドル/円」のような取引量の多い通貨ペアのスプレッド幅は狭い 重要指標の発表、災害・テロ、年末年始、早朝など流動性に大きな影響がない限り、 |
CFD取引のメリットと注意点
さて、CFDとFXの共通点と相違点を列挙しながら、CFDという金融商品の特徴について考えてきました。FXは外国為替だけですが、CFDは国内外の株式指数、個別株から金、銀、原油のような商品にいたるまで、さまざまな投資対象に少額から投資することが可能です。値動きの異なる投資対象を組み合わせることができるので、リスクヘッジを効かせた分散投資が手軽にできるというメリットもあります。
なお、CFDはFXと比較して低レバレッジの設定ですが、FXよりも「ボラティリティが高い」傾向になるといわれています。また、スプレッド幅が広く、投資対象の流動性が下がると、スプレッド幅が急拡大する可能性もあるので、しっかりとしたリスクコントロールが重要になります。
CFD初心者の人たちは、こうしたCFDの特徴をよく踏まえながら、無理のないCFD投資を心がけてください。
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ライターK
大学卒業後、テレビ制作会社に勤務、NHKや民放局の報道番組でディレクターを務める。その後、出版業界に転じて金融・経済誌の編集者や記者として、政治・経済・金融などの記事制作に携わってきた。現在はフリーで活動中。FX歴は10年以上。実際にポジションを持って、FXトレーダーたちのトレード手法を確認する日々を送っている。