【外為総研 House View】
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 調査部長 神田卓也
目次
▼ドル/円
・ドル/円の基調と予想レンジ
・ドル/円 11月の推移
・11月の各市場
・11月のドル/円ポジション動向
・12月の日・米注目イベント
・ドル/円 12月の見通し
ドル/円
ドル/円の基調と予想レンジ
ドル/円 11月の推移
11月のドル/円相場は146.656~151.910円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約2.3%下落した(ドル安・円高)。神田財務官が1日朝に円買い介入は「スタンバイ」と発言した上に、米連邦公開市場委員会(FOMC)がややハト派的と受け止められたこともあって下落スタートとなった。3日の米10月雇用統計もドル売りを誘う結果となり150 円台を終値で割り込んだ。
ただ、その後は、日銀総裁のハト派発言(6日)や米消費者のインフレ期待上昇(10 日)などから持ち直しの動きとなり151円台を回復。13日には昨年10月に付けた1990年以来の高値151.94円前後に迫る151.91円前後まで上昇した。ところが、14日に発表された米10月消費者物価指数(CPI)が予想を下回ると米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ期待が後退。米10月小売売上高(15日)の好結果で反発する場面もあったが、中国当局による人民元高・ドル安誘導や米感謝祭休暇を前にした短期筋の持ち高調整などもあって21日には148円台を割り込んで下落した。
その後も、自律的に149円台へ値を戻したもののドルの上値は重く、タカ派と見られたウォラーFRB理事が数カ月後の利下げに言及した28日には再び147円台へと下落。翌29日には9月12日以来の安値となる146.66円前後まで下値を拡大した。
出所:外為どっとコム「外貨ネクストネオ」
1日
米10月ISM製造業景況指数は46.7と市場予想(49.0)を下回った。内訳の指数では仕入価格が僅かに上昇した一方、新規受注や雇用が低下したFOMCは政策金利を予想通りに5.25-5.50%に据え置いた。声明では「経済活動は第3四半期に力強いペースで拡大した」と指摘しつつも「家計や企業の金融・信用状況の引き締まりが経済活動、雇用、インフレの重しになる可能性がある」との見解を示した。その上で「徐々にインフレ率を2%に戻すために適切とみられる追加的な金融政策の引き締めの程度を決めるに当たり、委員会は金融政策の度重なる引き締め、金融政策が経済活動とインフレ率に及ぼす影響の遅れ、および経済と金融の動向を考慮する」と表明した。
その後、パウエル議長が会見を行い「不確実性とリスク、これまでの(引き締めの)進展を考慮し、FOMCは慎重に進んでいる」などと発言。一方で「インフレ率を目標の2%に戻す上で金融政策が十分に抑制的かどうか、まだ確信を持てない」とし「経済成長が継続的に潜在成長率を上回っている兆候、ないし労働市場の引き締まりがもはや緩和していない兆候が新たに見られた場合、追加利上げが正当化され得る」と述べた。
3日
米10月雇用統計は非農業部門雇用者数が15.0万人増と市場予想(18.0万人増)を下回った。前月の雇用者数は3.9万人下方修正された。失業率は3.9%と予想(3.8%)を上回り、2022年1月以来の水準に上昇。平均時給は前月比+0.2%、前年比+4.1%だった(予想+0.3%、+4.0%)。米10月ISM非製造業景況指数は51.8と市場予想(53.0)を下回り、前月(53.6)から低下。内訳の項目別指数では仕入価格と雇用が前月から低下した一方、新規受注は上昇した。
6日
日銀の植田総裁は「2%の物価安定の目標に向けた見通し実現の確度が少しずつ高まってきている」としながらも「現時点では物価安定の目標の持続的・安定的な実現を十分な確度をもって見通せる状況には、なお至っていない」とあらためて指摘。金融政策運営に関しては「イールドカーブ・コントロール(YCC)の枠組みの下で粘り強く金融緩和を継続することで、経済活動を支え、賃金が上昇しやすい環境を整えていくことが政策運営の基本となる」と説明した。
10日
米11月ミシガン大消費者信頼感指数・速報値は60.4に低下した(予想63.7、前回63.8)。一方、消費者の期待インフレ率は1年先で4.4%と前回(4.2%)から上昇。5-10 年の期待インフレ率も3.2%に上昇した(前回3.0%)。格付け会社ムーディーズは米国債の格付け見通しを「ステーブル(安定的)」から「ネガティブ」に引き下げたと発表。格付け自体は最高位の「Aaa」で維持した。ムーディーズは声明で「議会内で政治的二極化が継続していることで、債務支払い能力の低下を遅らせるための財政計画が議会でまとまらないリスクが高まっている」と指摘した。
14日
米10月消費者物価指数(CPI)は前月比±0.0%、前年比+3.2%といずれも予想(+0.1%、+3.3%)を下回った。食品とエネルギーを除いたコアCPIも前年比+4.0%と予想(+4.1%)を下回り、2021年9月以来の低い伸びとなった。
15日
米10月小売売上高は前月比-0.1%と小幅な減少にとどまった(予想-0.3%)。前回9月分は+0.7%から+0.9%に上方修正された。また、自動車を除いた売上高は前月比+0.1%と予想(-0.2%)に反して増加。国内総生産(GDP)の算出に用いられるコア売上高(自動車・ガソリン・建材・飲食を除く)は前月比+0.2%と予想通りに堅調だった。
28日
ウォラーFRB理事は、現在の金融政策について「適切な位置にあるとの確信を深めつつある」とした上で「インフレ率が数カ月間低下を続ければ『利下げ』を始められる」と発言。タカ派と目されていた同理事のハト派発言を受けて、米金利先物市場で翌年3月もしくは5月の利下げ開始を織り込む動きが強まった。
11月の各市場
11月のドル/円ポジション動向
【情報提供:外為どっとコム】
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12月の日・米注目イベント
ドル/円 12月の見通し
米10月消費者物価指数(CPI)の伸びが鈍化したことやウォラー米連邦準備制度理事会(FRB)理事が「数カ月後の利下げ」に言及したことで11月のドル/円相場は中旬以降に下落した。早ければFRBが来年3月にも利下げに着手するとの見方が広がる中、12月12-13日の米連邦公開市場委員会(FOMC)には大きな注目が集まりそうだ。
12月FOMCでは政策金利を5.25-5.50%に据え置くと見られるが、これは市場も織り込み済みで、焦点は声明と同時に公表する政策金利見通し、いわゆるドットチャートだろう。9月時点では来年の利下げは2回との見通しが示されていた。他方、米金利先物市場はすでに来年3回から4回の利下げを織り込んでいる(12月1日時点)。仮にFOMCでドットチャートが下方修正=利下げ加速の見通しが示されれば、FRBが市場の利下げ観測を追認したことになる。ただし、その可能性は低いと見ている。米国のインフレ率は鈍化傾向にあるものの、依然として3%台で、FRBの目標である2%を大きく上回っている。FRBのもう一つの使命である雇用についても、8日発表の11月雇用統計を確認する必要はあるが、失業率はFRBが長期的な均衡水準(自然失業率)と見る4.0%をまだ下回っている。
こうした中で、FRBが来年の大幅利下げを示唆する公算は小さいと考えられる。12月FOMCで早期利下げを巡る市場の思惑が後退すれば、11月に下落したドルを再び押し上げる事になりそうだ。もっとも、12月中旬以降は海外勢がクリスマス休暇に入ることから、年末にかけて持ち高を落とす動きが出やすい傾向がある。投機筋が円売りポジションの手仕舞いに動くことも考えられるため、ドル/円としては上昇しても11月の下落をすべて埋めるのは難しいだろう。
(予想レンジ:145.000~151.000円)
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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