【外為総研 House View】
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 調査部長 神田卓也
目次
▼ポンド/円
・ポンド/円の基調と予想レンジ
・ポンド/円 10月の推移
・10月の各市場
・10月のポンド/円ポジション動向
・11月の英国注目イベント
・ポンド/円 11月の見通し
▼豪ドル/円
・豪ドル/円の基調と予想レンジ
・豪ドル/円 10月の推移
・10月の各市場
・10月の豪ドル/円ポジション動向
・11月の豪州・中国注目イベント
・豪ドル/円 11月の見通し
ポンド/円
ポンド/円の基調と予想レンジ
ポンド/円 10月の推移
10月のポンド/円相場は178.052~184.276円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約1.1%上昇した(ポンド高・円安)。とはいえ、31日だけで約3円上昇しており、それまでは上値の重い展開が続いた。英中銀(BOE)内で、追加利上げの是非を巡り意見が割れていることが浮き彫りとなったことで11月の利上げ期待が高まりにくかったほか、イスラエルとハマスの衝突で中東情勢が不安定化したことなどがポンドの重しとなった。
英国では賃金や物価が高止まりしており、そうした中で小売売上高が大きく落ち込むなど、スタグフレーション(不況下の物価高)懸念がくすぶっている。その影響もあって、ポンドは対ドルや対ユーロでは下落した。ただ、日銀がイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用を柔軟化した上で金融緩和の継続を表明したため、対円では31日に9月13日以来の184.28円前後まで強含んだ。
出所:外為どっとコム
2日
BOEのマン金融政策委員会(MPC)委員は、8月に公表されたBOEの予測は2021年12月以降の利上げの効果を過大評価していると指摘。「(BOEの)予測では、私が可能性が高いと考えるものとは根本的に異なるストーリーが長期にわたり語られてきた」とし、「私のストーリーは、内需がより底堅く、物価上昇圧力がより持続するというもので、より制約的な金融政策スタンスが必要になる」と発言した。
4日
ベイリーBOE総裁は、インフレ率は年末までに5%か「それを少し下回る」程度に低下するとの見通しを示したが、「目標の2%まで引き下げるにはまだその先がある」としてインフレ退治は「まだ終わっていない」との見解を示した。
5日
ブロードベントBOE副総裁は「金融政策の引き締めが何らかの効果を上げていることは、特に英国では需要という形において、それなりに明らかな兆候がある」と述べ、「総体的に見ても需要の伸びは弱く、少なくとも失業率はある程度上昇し始めている」と警戒感を示した。
12日
英8月国内総生産(GDP)は前月比+0.2%と予想通りだった。同鉱工業生産は前月比-0.7%で予想(-0.1%)を下回った。また同貿易収支は159.50億ポンドの赤字となり、赤字額は予想(149.50億ポンド)より大きかった。
16日
BOEのピルMPC委員兼チーフエコノミストは「インフレ率を2%に戻すためには、まだやるべきことがある。」として、インフレに対して「拙速な勝利宣言をしないことが重要だ」と続けた。
17日
英6-8月の週平均賃金(除賞与)は前年比+7.8%と予想に一致。統計開始以来最高の伸びだった5-7月の改定値(+7.9%)からは小幅に鈍化した。なお、この日BOEのディングラMPC委員は「労働市場が本格的に緩みつつある今、さらなる賃金上昇の勢いがどこから来るのか想像するのは非常に困難だ」として「国内インフレ圧力の緩和が見られるはずだ」と述べた。
18日
英9月消費者物価指数(CPI)は前月比+0.5%と予想通りに8月(+0.3%)から加速。前年比では+6.7%と市場予想(+6.6%)を上回り、8月と同じ伸びとなった。エネルギーや食品などを除いたコアCPIは前年比+6.1%だった(予想+6.0%、8月+6.2%)。
20日
英9月小売売上高は前月比-0.9%と予想(-0.4%)を下回った。自動車燃料を除いた売上高も前月比-1.0%と市場予想(-0.4%)を大幅に下回った。その後、格付け会社ムーディーズは英国の格付け見通しを従来の「ネガティブ(弱含み)」から「安定的」に引き上げた。ムーディーズは声明で「政策の予測可能性が回復した」と指摘した。
24日
英9月失業率は4.0%(前回3.9%)、同失業保険申請件数は2.04万件増(前回0.90万件減)だった。その後に発表された英10月製造業PMI・速報値は45.2と市場予想(44.7)を上回り前回(44.3)から上昇。同サービス業PMI・速報値は49.2(予想、前回ともに49.3)だった。
31日
日銀はYCCの運用をさらに柔軟化することを決定。長期金利の上限について目途を0.50%から1.00%に引き上げた上で、「粘り強く金融緩和を継続する方針である」と表明した。円売り主導でポンド/円は約1カ月半ぶりに184.28円前後まで上値を伸ばした。
10月の各市場
10月のポンド/円ポジション動向
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11月の英国注目イベント
ポンド/円 11月の見通し
11月のポンド相場において、まず注目されるのは2日の英中銀(BOE)金融政策委員会(MPC)だろう。前回9月の会合では政策金利を予想外に据え置いたが「インフレ圧力がさらに持続することがあれば、さらなる金融引き締めが必要となる」として追加利上げの可能性に含みを持たせた。据え置きの決定が5対4の僅差だったこともあって、市場には年内の追加利上げ観測が残っている。今回11月の利上げは見送るとの見方がほとんどだが、次回12月(14日)の利上げは金利先物市場で依然として2~3割織り込まれている。
そうした中、今回のMPCでは四半期に一度の金融政策報告書で経済と物価見通しが改定される。最近の景況感の下振れなどを踏まえると成長率見通しが下方修正される可能性はあるが、インフレ率が6%台で高止まりしている点から物価見通しが下方修正されるかは微妙だろう。前回の報告書では2023年末の物価見通しを約5%としていた。仮に、物価見通しが上方修正されれば追加利上げ期待が高まりそうだ。
ただし、前回0.5%と予測した2023年および2024年の成長率見通しが下方修正されれば、スタグフレーション(不況下の物価高)懸念が高まるおそれもあろう。いずれにしても、円が売られやすい地合いは続くと見られることから、ポンド/円は11月も底堅さを維持すると見られるが、ポンド自体に強い上昇圧力がかかることは考えにくいため上値も限られそうだ。
(予想レンジ:179.000~187.500円)
豪ドル/円
豪ドル/円の基調と予想レンジ
豪ドル/円 10月の推移
10月の豪ドル/円相場は93.038~96.410円のレンジで推移し、月間の終値ベースではほぼ横ばいだった。中国経済を巡る先行き不透明感や、米長期金利の大幅な上昇や中東情勢の緊迫化を受けたリスク回避ムードが豪ドルの重しとなった一方、豪中銀(RBA)の利上げ再開期待が下値を支えた。
豪ドルは対米ドルでは一時年初来安値を更新するなど軟調だったが、円が相対的に下落したため対円では底堅かった。3日には日本政府・日銀による円買い介入の誤認騒動で93.04円前後まで下落したが、中国の景気刺激策への期待などから10日には95円台後半へと持ち直した。その後も、イスラエル情勢の緊迫化などから弱含む場面があったが、17日のRBA議事録や24日のブロックRBA総裁の発言によって11月の利上げ再開観測が浮上したため持ち直すなど方向感が定まらなかった。31日には、日銀がイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用を柔軟化した上で金融緩和の継続を表明すると円安主導で96円台を回復して10月の取引を終えた。
出所:外為どっとコム
3日
9月に就任したブロック総裁の初会合として注目されたRBA理事会は大方の予想通りに政策金利を4.10%に据え置いた。声明にも目立った変更はなく、「インフレ率が妥当な期間内に目標に戻ることを確実にするためには、金融政策のさらなる引き締めが必要になる可能性があるが、それは引き続きデータとリスク評価の進展に依存する」との一文もそのまま維持した。
5日
豪8月貿易収支は96.40億豪ドルの黒字で、黒字額は市場予想(87.00億豪ドル)を上回った。輸出が前月比+4%と増加した一方、輸入は前月から横ばいだった。
10日
「中国は2023年の財政赤字拡大を容認することを検討しており、経済成長目標を達成するため新たな景気刺激策の準備を政府が進めている」との関係者の談話が伝わった。中国の景気回復期待から一時豪ドル買いが強まった。
16日
中国人民銀行は1年物中期貸出制度(MLF)を通じて7890億元を市場に供給。市場予想(5900億元)を大幅に上回る資金供給で、銀行システムへの流動性支援を強化した。MLFの金利は2.50%に据え置いた。
17日
RBAは3日の理事会の議事録を公表。「メンバーは(インフレ)上振れリスクが大きな懸念であることを認めた」「インフレ目標回帰が現在の予想より遅れることに対する理事会の許容度は低い」としてインフレが期待したほど鈍化していないことに懸念を表明した。一方で、「今回の会合で金利を据え置いたのは主に、金利が短期間に大幅に引き上げられ、引き締め政策の効果が経済活動やインフレに関するデータで十分に示されるのは数カ月後との観測に基づくものだ。また、労働市場は転換期を迎えており、中国経済の苦境が封じ込められなければ、豪州の成長鈍化につながる可能性がある」として追加利上げにはやや慎重な姿勢も示した。
18日
中国7-9月期国内総生産(GDP)は前年比+4.9%と4-6月期(+6.3%)から減速したものの、市場予想(+4.5%)を上回った。中国9月鉱工業生産は前年比+4.5%(予想+4.4%)、同小売売上高は前年比+5.5%(予想+4.9%)といずれも堅調だった。
19日
豪9月雇用統計は新規雇用者数が0.67万人増にとどまり、市場予想(2.00万人増)を下回った。一方、失業率は3.6%に低下した(予想、前月ともに3.7%)。新規雇用者数の内訳で正規雇用者が3.99万人減少(非常勤雇用者は4.65万人増)したことや、失業率の低下が労働参加率の低下(職探しをあきらめた人の増加)によるものだったことから、豪雇用市場が緩み始めたと受け止められた。
24日
ブロックRBA総裁は「雇用を拡大させながら、インフレ率を合理的な期間内に目標に戻すことが引き続きわれわれの焦点だ」とあらためて表明。その上で「インフレ見通しが大幅に上方修正された場合、追加利上げをためらわない」と発言した。
25日
豪7-9月期消費者物価指数(CPI)は前年比+5.4%と4-6月期の+6.0%から減速したものの、予想(+5.3%)を上回る伸びとなった。コアCPIに相当するトリム平均値も前年比+5.2%と予想(+5.0%)を上回った(4-6月期+5.9%)。
10月の各市場
10月の豪ドル/円ポジション動向
【情報提供:外為どっとコム】
- ※ データの更新は、NYC時に行われます(前営業日のデータが追加)。また、過去180日間のデータが表示されます。
- ※ 外為どっとコムのFX口座「外貨ネクストネオ」でお取引をされているお客様のポジション保持情報の比率を表しています。
- ※ 尚、このポジション比率情報は情報提供を目的としており、投資の最終判断は投資家自身でなさるようお願い致します。
11月の豪州・中国注目イベント
豪ドル/円 11月の見通し
10月中旬以降、豪中銀(RBA)の利上げ期待が急速に広がっている。17日発表の議事録で「インフレ目標回帰が現在の予想より遅れることに対する理事会の許容度は低い」とした上に、24日にはブロック総裁が「インフレ見通しが大幅に上方修正された場合、追加利上げをためらわない」と発言。さらに、25日に発表された7-9月期消費者物価指数(CPI)が前年比+5.4%と市場予想を上回ったことが背景だ。ただし、ブロック総裁は7-9月期CPIについて「ほぼ想定の範囲内」との認識を示し、「まだ数字を分析中だ。金融政策に関するわれわれの見解を変えるに十分かどうか見極める必要がある」とも述べて いる。11月7日の追加利上げに関しては、まだ確定的とは言えないだろう。
仮にRBAが利上げを見送るようなら豪ドルには下落圧力がかかりそうだ。もっとも、11月の利上げの有無にかかわらず、次回12月(5日)の利上げ期待は維持されそうだ。RBAは、11月10日に発表する金融政策報告で経済と物価の見通しを更新。その上で15日の7-9月期賃金指数、16日の10月雇用統計などのデータを確認する意向を示すと見られる。また、22日にはブロック総裁の講演が予定されている。これらを経て12月の利上げ期待が大きく後退しなければ、仮に11月の利上げを見送っても豪ドルの下値は限定的と見る。
(予想レンジ:94.000~99.000円)
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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