【外為総研 House View】
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 調査部長 神田卓也
目次
▼ユーロ/円
・ユーロ/円の基調と予想レンジ
・ユーロ/円 8月の推移
・8月の各市場
・8月のユーロ/円ポジション動向
・9月のユーロ圏注目イベント
・ユーロ/円 9月の見通し
ユーロ/円
ユーロ/円の基調と予想レンジ
ユーロ/円 8月の推移
8月のユーロ/円相場は155.532~159.767円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約0.9%上昇した(ユーロ高・円安)。ユーロ/ドルとドル/円の掛け算通貨ペアであるユーロ/円は、ユーロ/ドルの下落(約1.4%)が重しとなったものの、ドル/円の上昇(約2.3%)が支えとなり堅調に推移した。
ドル/円が6月に付けた従来の年初来高値を窺う展開となったことで159円台へと強含んだものの、ドイツの景気不安などから欧州中銀(ECB)の追加利上げ期待が弱まる中でユーロ/ドルが2カ月半ぶりの安値に向かう中で伸び悩んだ。独8月消費者物価指数(CPI)が高止まりしたことで30日には159.77円前後まで上伸して2008年8月以来、15年ぶりの高値を付けたが、翌31日にはユーロ圏8月コア消費者物価指数(HICP)・速報値の鈍化を受けて157円台に反落した。
出所:外為どっとコム「外貨ネクストネオ」
4日
ECBのレーン専務理事は「インフレは年後半に大きく低下するだろう」と発言。ECBはこの日公表した経済報告で、最近の物価圧力緩和は主に非エネルギー工業製品にけん引されているとした上で、サービス業でも鈍化が始まったようだと指摘。ユーロ圏の基調的インフレは恐らくピークに達しているとの見方を示した。
9日
独電力会社エーオンは「ウクライナでの戦争とロシア産ガスの欧州向け供給が途絶えたことによる構造的な変化は今後も続き、危機が終わったわけではないことは明確だ」として今冬もエネルギー価格高騰のリスクがあると警告した。なお、この日は中国の景気刺激策への期待やロシアとウクライナの戦闘激化を巡る懸念から原油や天然ガスの価格が上昇した。
15日
独8月ZEW景気期待指数は-12.3と市場予想(-14.9)に反して7月(-14.7)からマイナス幅を縮小した。ただ、ドイツの景気見通しが改善したとはいえ依然として指数の水準は低く、ユーロ相場への影響も小さかった。
16日
ユーロ圏6月鉱工業生産は前月比+0.5%と予想および前回(±0.0%)を上回った。同時に発表されたユーロ圏4-6月期域内総生産(GDP)・改定値は前期比+0.3%と速報値と同じだった。
23日
独8月製造業PMI・速報値は39.1と予想(38.8)は上回ったものの、約3年ぶりの低水準だった前月(38.8)からの改善は小幅にとどまった。同サービス業PMI・速報値は47.3と予想(51.5)を下回り、拡大・縮小の分岐点である50.0を8カ月ぶりに下回った。その後に発表されたユーロ圏8月PMI・速報値は製造業が43.7(予想42.7、前回42.7)、サービス業が48.3(予想50.5、前回50.9)だった。
25日
ECBのラガルド総裁はジャクソンホール会議で「経済の関係が変化し、既存の規則性が崩れる時代に突入しているのかもしれない」との見解を示した。総裁は、インフレは依然として克服されていないとの認識を示したものの、金融政策の見通しについては触れなかった。
30日
独8月CPIは前年比+6.1%と高止まりした(予想+6.0%、前回+6.2%)。スペインでも8月CPIが予想を上回る伸びとなったことでECBが9月に追加利上げに動くとの観測が高まった。ユーロ/円は159.77円前後まで上伸して2008年8月以来15年ぶりの高値を付けた。
31日
ユーロ圏8月HICP・速報値は前年比+5.3%と予想(+5.1%)を上回ったが、エネルギーや食品などを除いたコアHICPは前年比+5.3%と予想通りに前月(+5.5%)から鈍化。ECB7月議事要旨に「9月の予測ではインフレの経路が目標の2%に向けて十分に下方修正される可能性が高い」「9月の追加利上げは必要でない」との指摘があったこともユーロ売りを強めた。
8月の各市場
8月のユーロ/円ポジション動向
【情報提供:外為どっとコム】
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9月のユーロ圏注目イベント
ユーロ/円 9月の見通し
ユーロ圏の8月の経済指標を見ると、製造業購買担当者景気指数(PMI)が43.7、サービス業PMIが48.3と揃って分岐点の50.0を割り込んでおり、不況入りを示唆。これまで、景気を下支えしてきたサービス業でも景況感が落ち込んだ。
一方、消費者物価指数(HICP)は前年比+5.3%と、昨年10月のピーク(+10.7%)から伸び率は半減したものの、欧州中銀(ECB)のインフレ目標である2%の2.5倍以上で高止まりしている。ECBが注目する食品やエネルギーなどを除いたコアHICPも前年比+5.3%と有意な低下は確認できない。
スタグフレーション(不況下の物価高)への懸念がくすぶる中で、市場はECBが9月14日の理事会で利上げを見送るとの見方に傾いている。それでも2~3割程度の利上げ期待(ユーロ圏金利先物の織り込み)が残る中で、仮にECBが9月利上げを見送ればユーロは対ドルで下落する公算が大きい。マイナス金利通貨の円に対する下落圧力はそれほど大きくないと見るが、一時的にせよ下落は避けられないだろう。
一方、ECBが大方の予想に反して追加利上げに踏み切るようならユーロは対ドル、対円ともに上昇すると予想される。ただし、この場合は利上げによってスタグフレーション懸念が一層高まることにもなりかねない。仮にサプライズ利上げがあってもユーロ高は持続性を欠くと見ておきたい。
(予想レンジ:152.500~160.500円)
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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