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投資家のリスク許容度に応じた「らくつむ」の投資案とは?

これまでらくらくFX積立、通称「らくつむ」のシミュレーションをして、積み立てたときの累積スワップポイントや複利効果について記事を書かせていただきました。

▶過去記事
www.gaitame.com

ただ、らくつむのアンケート調査によると、「リスク」について懸念されている投資家が多いことがわかってきましたので、今回は通貨ペアごとのリスクとリターンを計算し、そのデータから投資家のリスク許容度に応じた投資案を作ります。

金融工学における「リスク」とは

「電車が遅れるリスクがある」「体調不良になるリスクがある」といった日常で使うリスクの意味は、『将来において何か悪いことが起こる可能性』といった意味で使われます。

一方、金融工学や経済学では、『リスク』について「ある金融商品に対して、ある一定の期間の価値の変化のばらつき具合」と定義します。

『価格変化のばらつき具合』は数学的に厳密に定義され、『価格変化率の標準偏差』を計算すれば数値がでます。

ここで、「一般的なリスク」と対比して理解してほしいのが、「一般的なリスク」は『将来において何か悪いことがおこる可能性』のみを含んでいますが、「金融工学でいうリスク」は『価格変化のばらつき具合』であるため、損失の可能性だけでなく利益を出す可能性も含まれています。

図にすると、以下のように価格が下がることがリスクではありません。


金融工学では、価格変化のばらつき具合をリスクといいます。


ここで、これまでシミュレーションをした6つの通貨ペアの『価格変化率の標準偏差』を計算しました。

 

USD/JPY

AUD/JPY

TRY/JPY

MXN/JPY

CNH/JPY

ZAR/JPY

リスク

2.66%

3.97%

5.68%

4.71%

2.49%

5.12%

期間

2002年4月

2022年11月

2002年7月

2022年11月

2014年11月

2022年11月

2014年11月

2022年11月

2014年11月

2022年11月

2007年6月

2022年11月

※リスク=月次価格変化率の標準偏差

金融工学における「リターン」とは

次に「リターン」については、「ある金融商品の一定期間の変化率の平均値」と定義します。通貨ペアごとのリスクの表にリターンを追加すると以下のようになります。

 

USD/JPY

AUD/JPY

TRY/JPY

MXN/JPY

CNH/JPY

ZAR/JPY

リターン

3.23%

1.52%

-10.97%

5.05%

2.85%

2.10%

リスク

2.66%

3.97%

5.68%

4.71%

2.49%

5.12%

期間

2002年4月

2022年11月

2002年7月

2022年11月

2014年11月

2022年11月

2014年11月

2022年11月

2014年11月

2022年11月

2007年6月

2022年11月

※リターン=年次価格変化率の平均値

USD/JPYのリターン3.23%、リスク2.66%の意味

金融工学では、理論構築のために価格の変化率は正規分布に従うと仮定して理論を展開します。

いまUSD/JPYのリターン(年次)が3.23%、リスク(月次)が2.66%であるとわかっているので、一ヶ月後には以下のような騰落率がイメージできます。

実際の金融商品の価格が厳密に正規分布に従うことはほとんどないので、この騰落率と発生可能性はあくまでも目安です。

ただ、標準偏差の大きさで大きく動きやすいか否かを相対的に評価することは可能です。リスクの順番に並び替えをすると以下のようになります。

 

MXN/JPY

USD/JPY

CNH/JPY

ZAR/JPY

AUD/JPY

TRY/JPY

リターン

5.05%

3.23%

2.85%

2.10%

1.52%

-10.97%

リスク

4.71%

2.66%

2.49%

5.12%

3.97%

5.68%


損失許容度について

総資産の何%の損失を許容できるか?という概念を損失許容度といいます。損失許容度が0%から3%の投資家は、リスクが3%以内のCNH/JPY、USD/JPYを検討すると良いでしょう。

損失許容度が3%から5%の投資家は、MXN/JPY 、ZAR/JPY、AUD/JPYを検討すると良いでしょう。TRY/JPYは、2014年11月〜2022年11月の月次リターンがマイナスなので、統計上は値下がりする可能性が高いことを示唆しています。らくつむは長期的にロングポジションを持つ戦略ですので、リターンがプラスになっている通貨ペアのほうが良いでしょう。

それでは、損失許容度が5%以上の投資家はどのような投資案が考えられるでしょうか?

リターンがマイナスとはいえ、リスク(標準偏差)が大きいZAR/JPY、TRY/JPYを保有するほうがいいでしょうか?

私は安易にリスク(標準偏差)が大きい通貨ペアに投資するのではなく、安定して上昇している通貨ペアを長期保有したほうが良いと考えます。

長期保有した場合のリターンとリスクを考慮

前述したリターンとリスクは、長期保有を想定すると数値が変わります。

年次のリターンとリスク

 

MXN/JPY

USD/JPY

CNH/JPY

ZAR/JPY

AUD/JPY

TRY/JPY

リターン

5.05%

3.23%

2.85%

2.10%

1.52%

-10.97%

リスク

16.32%

9.21%

8.63%

17.74%

13.75%

19.68%

 

月単位の保有から年単位で長く持つと、変化は大きくなるので、リターンとリスクは大きくなります。

年単位でCNH/JPY、USD/JPYを保有するとリスクは8.63%、9.21%と大きくなり、損失許容度が5%〜10%の投資家にもリターンがプラスの投資案にすることができます。

損失許容度に応じた投資案のまとめ

以上、損失許容度に応じた投資案は、リターンがプラスになることを前提に、通貨ペアのリスクと保有期間を考慮すると以下のようにまとめられます。

損失許容度

投資案

0%〜3%

CNH/JPY、USD/JPYを1ヶ月単位で保有

3%〜5%

MXN/JPY、AUD/JPYを1ヶ月単位で保有

5%〜10%

CNH/JPY、USD/JPYを1年単位で保有

10%〜

MXN/JPY、ZAR/JPY、AUD/JPYを1年単位で保有


為替は大きく動くので、損失許容度を小さくすると、資産の積み立てがあまりできません。スワップポイントもあまりたまらず、スワップポイント再投資の旨味も享受できません。

例えば、損失許容度3%でCNH/JPYやUSD/JPYを保有して1ヶ月〜数ヶ月で損失をチェックして一喜一憂するよりも、損失許容度を大きくして1年〜数年、スワップポイント再投資をしたほうが資産は大きく積み上がります。

そこでポイントなのはリターンがプラスであること。チャートでいうと長い目で見て右肩上がりの通貨ペアということです。

どんなにスワップポイントが良くても、リスク(標準偏差)が大きくても、チャートの形状が右肩下がりの場合は積み立てていっても資産は評価損失で目減りすることになります。

積み立て投資をする場合はスワップポイント、リスク(標準偏差)そしてリターン、つまりチャートの形状が右肩上がりかどうかを確認しましょう。

岩田仙吉(いわたせんきち)氏
株式会社タートルズ代表/テクニカルアナリスト
2004年、東京工業大学から一橋大学へ編入学。専門は数理経済学。卒業後、FX会社のシステムトレードプロジェクトのリーダーになり、プラットフォーム開発および自動売買プログラムの開発に従事。その後、金融系ベンチャーの立ち上げに参画。より多くの人に金融のことを知ってほしいと思い金融教育コンテンツの制作に集中するために会社を創業。現在は、ハイリスク・ハイリターンの投資手法ではなく、初心者でも長く続けられるリスクを抑えた投資手法を研究中。