この後相場は値上がりするのか、それとも値下がりするのか。
将来の値動きがわからない金融商品に投資するFXでは、運用資産のすべてを失うリスクを抱えています。そのリスクを回避するために、どのタイミングで売買すべきか、どのような分析をすれば利益を出せるのか、ついつい「買い方」や「売り方」などに目がいきがちです。
しかし、FX投資の目的は資産運用です。FX初心者は売買方法を研究するよりも、どうすれば資金が減らないのか、どうやって資金を増やしていくか、しっかりとした「資金管理」を研究するべきです。ここでは資金管理の重要性について解説してみます。
FX初心者は資金のすべてを投資するな
どれほど利益を増やしたいからといって、自己資金のすべてを投資するのはやめましょう。投資は損失を出して資金を減らすと、元本の回復が難しくなるからです。
これは損失の割合と元本回復までに必要な利益率の関係です。
資金を10%減らすと、元本回復には11%の利益が必要になります。
20%減らしたら、25%増やさなければなりません。
この表をグラフにしてみましょう。
損失の割合が高くなればなるほど、元本回復までに必要な利益率が大きくなることがわかります。
(参考記事)FX市場から退場せず、成長し続けるために必要な資金計画の立て方とは?
(https://www.gaitame.com/media/entry/2019/08/13/194003)
【関連動画】
FXから退場しない、成長し続けるための資金計画とは 岩田仙吉 - YouTube
運用時に注意したい許容する損失率の目安
それではどのくらい損失率を抑えればいいのでしょうか? 先程は損失率を10%、20%、30%・・・と、10%ごとに元本回復までに必要な利益率をみてみました。
今度は1%、2%、3%・・・と、1%ごとにみてみましょう。
損失率と元本回復までの利益率を比較してみましょう。1%から6%までは、乖離が0.5%より小さいことがわかります。
1.01% −1%=0.01%
2.04% −2%=0.04%
3.09% −3%=0.09%
4.17% −4%=0.17%
5.26% −5%=0.26%
6.38% −6%=0.38%
7.53% −7%=0.53% >0.5%
損失率を6%以下に抑えると、元本回復までの利益率が、比較的無理の少ない数値で収まるということがわかります。
ところが、連続で6%の損失を出せば、あっという間に10%以上、資金が減ってしまい、元本が回復しにくくなります。
連続で6%の損失を出した場合:6.38%+6.38%=12.76%>10%
誰もが連続で損失を出す可能性があります。そのことを考慮して、許容損失率はさらに小さくすべきなのです。
FX初心者のための損切り目安
アメリカの著名なファンド・マネジャーであるラリー・ハイトは、自身が創設した投資ファンドのトレーダーたちに「どの取引においても全資産の1%以上のリスクをとるな」と指示しています。
「1%以上のリスクをとるな」という意味は、全資産の1%以上の評価損が出たら、すぐに損切りをしろという意味です。
100万円なら1万円の損失で損切りです。
30万円なら3,000円で損切りです。
皆さんは、この数字を見て、どのような印象をお持ちでしょうか。
「こんなにすぐに損切りをしていたら利益が出ない」と思う人もいるでしょう。
特にFX初心者は、資金を増やすことよりも、資金を減らさずに経験値を積むことが重要です。
「全資産の1%の評価損が出たら損切りする」というルールを厳守することで、「すぐに評価損になるような下手な取引はできないな」と自覚して、損失回数を減らすことができればしめたものです。
資金管理のための「損切幅」「利確幅」の決め方
まず損切幅です。これはエントリーのときに決めることができます。
エントリーするときは、テクニカル指標の値やチャートの形状などから、何か判断基準があるはずです。予想に反して、逆に価格が動いてしまったときに、自分の間違いの「答え」となるのが「損切幅」です。
例えば、「移動平均線のゴールデンクロス」を確認した後、「買い」でエントリーしたのであれば、価格が逆に動いてゴールデンクロスが解消し、自分が設定した「損切幅」分の下落があったら、自分の間違いを認めて、すぐに損切りします。
チャートが「一目均衡表の雲を抜けた」から「買い」と判断したものの、次第に勢いが弱まり、雲に再突入して、自分が決めた「損切幅」まで下落したら、エントリーの判断ミスと認めて、すぐに損切りしましょう。
エントリーの際、判断基準があれば、判断の間違を認める「損切幅」は決められるはずです。
「許容損失率」「損切幅」でポジションサイズが決まる
損失率から「損失許容額」が決まり、エントリーの判断から、「損切幅」を決めると、自動的にポジションサイズが決まります。
例えば、許容損失率を決めると、元本との関係から損失許容額が決まります。
損失許容額が1万円だとして、損切幅を0.5円と決めると、ポジションサイズは自動的に決まります。
これを計算式で示すと以下の通りです。
10,000(円)÷0.5(円)=20,000(通貨)
1,000通貨=1Lot
20,000(通貨)=20Lot
FX初心者が陥る資金管理のミス
ところがFX初心者は、上述した方法とは逆の順序で考えがちです。
(1)「とりあえず10Lot発注してみよう」と、まずポジションサイズを決めます。
(2)「損切りはこれくらいかな」と「損切幅」を決めたり、損失額を見積もったりします。
このときの損失額が、全体資金の何%かを考えていればいいのですが、実際は考えていないことがほとんどです。
厳格に資金管理をするためには以下のようなプロセスが必要になります。
(1) 損失率を決定
(2) 損失額を決定
(3) 損切り幅を決定
(4) 最後にポジションサイズを算出
トレードする際、このプロセスで資金管理をすると、資金を減らすリスクを低く抑えることが可能になります。結果的にFX市場から退場することなく、経験を積み、利益獲得の可能性を高められます。
ハイレバにならない「買い増し」「売り増し」方法で資金管理
最後に、ポジションを持ちながら決済することなく、ポジションを増減させる方法について説明しましょう。
厳格に守らなければならないのが、最初に決めた(1)損失率です。
「買い増し」や「売り増し」すると、トータルでのポジションが増え、ハイレバレッジとなり、相場が逆に動いたときは、損失は大きく増えることになり、損切幅は“浅く”なります。
損切幅が浅くなったことで、損切りのタイミングが早まり、その後、「価格好転」が起きた場合、十分な値幅が取れないことがあります。
「利益がのったら、ポジションを追加する」というのではなく、資金管理の観点から、最初は小さなポジションで発注し、「買い増し」「売り増し」をした後も、『損失許容額』の範囲に収まるようにしてください。つまり最初のエントリーは、「打診買い」「打診売り」というつもりで行いましょう。
※打診買い・売り:市場の反応を探るために小口の買い・売り注文をだすこと
株式会社タートルズ代表/テクニカルアナリスト
2004年、東京工業大学から一橋大学へ編入学。専門は数理経済学。卒業後、FX会社のシステムトレードプロジェクトのリーダーになり、プラットフォーム開発および自動売買プログラムの開発に従事。その後、金融系ベンチャーの立ち上げに参画。より多くの人に金融のことを知ってほしいと思い金融教育コンテンツの制作に集中するために会社を創業。現在は、ハイリスク・ハイリターンの投資手法ではなく、初心者でも長く続けられるリスクを抑えた投資手法を研究中。
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