来週に迫ったECB理事会について、ナットウエスト・マーケッツ証券会社 チーフエコノミスト 高橋祥夫氏が見通しを特別寄稿の形でまとめました。
崩れた『ユーロ高』シナリオ…
6月9日にアムステルダムで意気揚々と利上げの計画を宣言した時には、欧州中央銀行(ECB)はわずか1ヵ月後にこのような展開となることを想定していなかったはずだ。実際、ECBがようやく引き締め局面に入ることでユーロが最終的に上昇に向かうと予想していた人は多かったのでないかと思われる(動画で証拠が残っているが、筆者もその一人である)。しかし、実際にはユーロ/ドルは20年振りの安値に沈み、一時はパリティ(1ユーロ=1ドル)を割り込んでしまった。
3つの見込み違いがあった。
第一に、連邦準備制度理事会(FRB)がここまでタカ派に豹変するとは予想できなかった。FRBは6月の75bp利上げに続き7月も最低75bpの利上げに踏み切る見通しであり、今では景気減速のリスクを冒してもインフレを抑制しようとしている。
第二に、コロナ後の経済再開による回復が期待されていたサービス部門が肝心の夏休みの前に失速した。ラガルド総裁は6月28日のシントラの講演で、エネルギー価格の上昇が企業のマージンと家計の実質購買力を押し下げている点に懸念を示した。リーマン・ショックの直前に原油高によるインフレを理由に利上げを行ったトリシェ総裁時代の失敗も頭をよぎる。
第三に、EUはロシアへの制裁を強化しているが、その代替策は進んでいない。ノルドストリームの点検による天然ガスの供給停止で、欧州のエネルギー供給のリスクが改めて市場で意識された。
7月ECB理事会の予想
7月のECB理事会では、予告どおり25bp利上げが実施されるだろう。ただ、分断化(フラグメンテーション)対策については、最近のECB当局者の発言からみて、期待された「新しいツール」の発表は遅れる可能性がある。こうしたなか、ユーロが円に代わってドル高の受け皿になってしまうリスクがある。これまで海外勢は日銀の政策変更に賭けてきたが、安倍元首相の銃撃事件を受け、少なくとも目先は日銀がアベノミクス路線を修正する可能性は低下した。一方、ECBが利上げを正式に開始する前の段階でも、市場では依然として年末までに合計150bpの利上げが織り込まれている。ECBの利上げ予想が一段と下方修正されるならば、「金利予想の変化」という点では円よりもユーロの方が脆弱に映る。この夏はユーロに要注意である。
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高橋 祥夫(たかはし・よしお)氏
野村総合研究所でエコノミストとして勤務した後、ドイツ証券、バークレイズ証券で20年以上にわたり外国債券と為替のストラテジストとして活躍。現在、ナットウエスト・マーケッツ証券チーフ・エコノミストとして日本経済の分析を海外向けに発信するとともに、豊富な経験に基づき為替を含めた海外投資戦略を幅広い投資家に提供している。
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