こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、日本ではまだまだ情報の少ない中国経済や人民元について、報道や公表データ、現地の報告などをもとに、相場の見通しを立てていきます。中国の金融経済が世界の金融市場に与える影響は年々大きくなっていますので、人民元や他通貨の売買のご参考にして頂ければ幸いです。
第9回は「人民元は売りから、米中金利差と新型コロナの蔓延を意識したトレード戦略」といたしまして、私なりの相場見通しをお伝えいたします。
目次
1.人民元相場の定点観測
2.人民元安、円安の材料が3つ出てきた
3.対ドルでは人民元高を想定も、対円は横ばいを想定
1.人民元相場の定点観測
まず簡単に足元の人民元相場を振り返っていきましょう。
<USD/CNH(ドル/人民元)日足>
2022年3月14日13時の為替レート:1USD = 6.3639CNH
USD/CNH相場ですが、前回の寄稿(1月前)とほぼ同水準です。ただし後ほど説明しますが、状況は大きく変化しています。
<CNH/JPY(人民元/日本円)日足>
2022年3月14日13時の為替レート:18.52
CNH/JPYは1月前と比べて0.38円上昇しました。これはドル円の大幅な上昇が要因です。こちらものちほど詳しくご説明します。
2.人民元安、円安の材料が3つ出てきた
あしもとの人民元相場を見ていく上で重要な材料は3点あると考えています。
1点目が先月号でもお伝えしましたが「米中の金利差」です。アメリカが利上げに向かう一方で、中国の金融政策は引き続きやや緩和的とあって、ここにきて米中金利差が一気に縮小しています。
米金利は上昇しているが、人民元金利は低下しており、結果として米中金利差は縮小している
投資家にとって、人民元投資の大きな魅力の一つは他の先進国対比で高金利なことです。ですから米ドルと人民元の金利が近づけば近づくほどに人民元の魅力は薄れていくことになります。
ゆえに米中金利差の縮小は人民元売り圧力に繋がる可能性が高いので注目しています。
2点目は「中国で新型コロナウイルスが蔓延」してきていることです。12日の感染者数は約3,400人となり、過去最多を更新しました。
政府は感染を抑え込む「ゼロコロナ政策」を強化しており、東北部の吉林省長春市に続き南部の広東省深圳市も都市封鎖を実施します。また上海市も移動制限が掛けられています。
なお現地ではこのような形で職員を派遣し、万全のPCR体制と隔離を実施しているそうです。
衛生服をきて歩く職員の写真 at 蘇州
ちょっと恐ろしいですよね。でもここまで徹底するのが中国流のゼロコロナ政策です。私も、中国在住の時はコロナに掛かったらこの方々に連行されると思うと、恐ろしく感じ、体調管理を徹底していました。
ただし、こうやってゼロコロナを徹底すればするほどに、経済活動が停滞してしまいますので、これも足元で人民元が(対ドルで)売られている一つの大きな理由でしょう。合わせて豪ドルも売られていますが、これもオーストラリアの大きな輸出先である中国の経済活動が停滞するのでは?との思惑が絡んでいると思います。
3点目は日本の要因ですが、「日本の経常収支が大幅に悪化」し、円安が加速しています。日本の2022年1月の経常収支は財務省が統計を報告している1996年からのデータで過去2番目に悪い数値を記録しました。
経常収支とは端的に言うと、日本と外国の貿易やサービスなどの勝ち負けを記録した統計です。つまり赤字だとネットで海外への支払いが多くなるので、円売り外貨買いが加速し、円安材料になります。
日本はこれまではプラスを維持してきました。近年、貿易はだんだんと儲からなくなっていたのですが、それでも海外からの配当、例えばトヨタ自動車の海外現法からの配当金(グラフの第一次所得)などでプラスを維持していました。
ところがここにきて資源価格が高騰し、資源輸入代金が急上昇していることや、さらに海外での競争もより厳しいものになってきていることから経常黒字が減少傾向にあります。
日本が恒常的に外貨支払いの国になってきたのではないか?こういった思惑が円売りを加速させていますので、注目して追っています。
例えばドル円は短期的には買われ過ぎと思うのですが、中長期的には120円の方向でみています。
3.対ドルでは人民元高を想定も、対円は横ばいを想定
想定しているシナリオは以下の通りです。
今後1ヵ月の人民元相場見通し
対ドル:6.3000~6.5000 上目線
対円:18.10円~18.75円 横ばい
まず対ドルですが、先に述べた「米中金利差の縮小」や「新型コロナの感染拡大」などファンダメンタルズ要因でみても人民元売りが連想されます。それからチャートを見ても昨年の中頃から続いているドル売り人民元買いの圧力が緩んできた(画像の黄色い丸)ように思います。従ってドル買い、人民元売りで攻めていきます。
対円についてはドル/円が底堅いので押し目買いの方針です。ただし足元のテクニカル指標は買われ過ぎを示唆しています。例えば私がよく使うRSIを少し長めに20日ほどの軸で眺めてみても買われ過ぎである70(画像の下段)にかなり近くなっていることが分かります。
ドル/円がストップを巻き込みながら急上昇しましたので、目先は売りから入って行くのもリスクリワードが良いと考えます。対ドルでも人民元は安くなりそうですし、ドル/円も短期的に下がってくれれば、もしかしたら大きな幅をとることが出来るかも知れません。
ただし、前述の通り円安の要因は根深い問題です。経常収支が構造的に赤字になりつつある、つまり外貨を稼ぐ力そのものが衰えていることを考えると、過度に円買いのポジションに傾けることは避けた方が良いと思います。
したがって短期的にはCNH/JPYは下を想定しますが、下がったところは押し目買いで良いと考えています。
なおウクライナ戦争が激化し各国のロシア制裁が強化されています。この件については中長期的な目線で考えると人民元高要因と考えています。
「SWIFT」とよばれる国際決済システムから切り離されたロシアが今後使うであろうシステムは中国が開発した「CIPS」と呼ばれるシステムになると思われます。このCIPSの決済では主に人民元が用いられることになり、ロシア企業やロシア中銀の人民元保有が増えると想定されます。つまりロシア人やロシア企業、ロシア中銀のアセットがドルやユーロ、円などから人民元に移っていくということです。
長くなってしまいますので、またどこかでくわしく解説させて頂きたいと思いますが、端的に言えば、ウクライナ戦争で利するのは、ロシアでもEUでもアメリカでもなく、中国だと考えているということです。
以上が私の現時点における人民元相場との対峙方法になります。ご参考にして頂ければ幸いです。
引き続き、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
戸田裕大
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<参考文献>
日本経済新聞:中国でコロナ感染者が過去最多 深圳でも都市封鎖へ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM130QU0T10C22A3000000/
各種為替データ:
CNH/JPY:外貨ネクストネオ
USD/CNH:https://investing.com
米国の3ヵ月物金利:https://iborate.com/
中国の3ヵ月物金利:Investing.com
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代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。
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