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通貨の騰落率を確認 円高・ルーブル安
ウクライナリスクを市場が意識し始めたのは11日。米ホワイトハウスが、ロシアによるウクライナ侵攻について「いつ起きてもおかしくない」との認識を示した事がきっかけとなった。11日以降、本日22日までの各通貨ペアの騰落率は以下の表のとおりで、ドル円以下、円絡みの通貨ペアの下落が目立っており、円高傾向が見て取れる。
さらに、ドルを基準にこれを通貨単体の強弱で示すと以下のようになる。
やはり、円が最強通貨であることがわかる。とはいえ、上昇率は1.1%に過ぎない。この間、日経平均株価が4%超下落しており、NYダウ平均も3%超下落していることを考えると、「リスク回避の円高」が大幅に進んだとは言い難い。その理由としては原油高が挙げられるのではないだろうか。ロシアは有数のエネルギー輸出国であることから、ウクライナ情勢が緊迫化すれば、世界的なエネルギー供給不足を引き起こしかねない。実際に、11日以降のNY原油(WTI)は供給懸念を背景に1バレル=90ドル前後から94ドル前後へと上昇している。エネルギー資源を輸入に頼る日本から見れば、原油価格の上昇は貿易赤字の拡大要因であり、円安要因となる。足元でも、原油高が「リスク回避の円高」をある程度緩和していると見てよさそうだ。
ロシアルーブル 下落の背景
一方、ロシアルーブルの下落率が大きいのは、欧米による経済制裁への懸念を反映したものだろう。仮にウクライナに侵攻すれば、欧米はロシアに対して貿易制限などの経済制裁を科すと警告している。エネルギー価格が上昇しても、制裁によって輸出先を失ったロシアにその恩恵が及ぶ可能性は低く、経済には強い下押し圧力がかかることが容易に想像できる。
地政学的リスクはユーロやトルコリラへも広がる
他方、ユーロやトルコリラの下落については、ロシア産エネルギーの輸入が滞る事で経済が悪化するリスクを意識したものと見られる。ユーロ圏は天然ガスの約35%をロシアから輸入しており、その多くはウクライナを経由するパイプラインで輸送されている。トルコもエネルギー自給率がきわめて低い資源輸入国である。また、いずれも地理的にロシア・ウクライナに近く、地政学リスクが波及しやすいというのも共通点だ。
ロシア、同盟国への「支援」として部隊派遣へ その時、円は
こうした中、ロシアは21日にウクライナ東部の「ドネツク」と「ルガンスク」を独立国として承認した。「ドネツク」と「ルガンスク」は親ロシア派が実効支配しており、ウクライナ政府軍と親ロシア派が睨み合う紛争地域だ。これらを独立国(同盟国)として承認したことで、ロシアはこの地域に軍を進めても、「侵攻」ではなく同盟国への「支援」だと強弁することが可能になる。今回のロシアの独立承認によって市場の「ウクライナ有事」に対する警戒レベルは一段階上がったと考えられる。もし、ロシアが欧米の警告を無視してウクライナに侵攻すれば、円にはもう一段の上昇圧力がかかる可能性が高そうだ。しかし、同時に原油価格も上昇すると見られることから、一方的に円高が進む公算は小さいだろう。場合によっては、市場が「有事」を意識し始めたことで、これまで一部の通貨に対してしか発動されていなかった「有事のドル買い」が勢いを増すことも考えられる。いずれにしてもこの先、ウクライナ情勢を巡る緊張がさらに高まれば「リスク回避の円買い」と「有事のドル買い」が交錯しやすくなると見られ、ドル/円よりもクロス円の続落に一層の注意が必要となりそうだ。
2014年クリミア併合時、リスク回避の円買いは一週間ほど
もっとも、仮にロシアがウクライナに侵攻しても、北大西洋条約機構(NATO)軍との全面衝突に発展する事は考えにくく、市場のショック商状=円買いも比較的早く収まる事になるだろう。ロシアとしては、「ドネツク」と「ルガンスク」を事実上併合したことで、たとえウクライナがNATOに加盟しても、「緩衝地域」を手に入れた事になる。プーチン大統領としても、相応の痛手を被るNATO軍との交戦はできれば避けたいはずだ。なお、2014年春にロシアがクリミア半島へ侵攻した際、リスク回避の円買いは1週間ほどで収束。ロシアによるクリミア併合後の円は日銀の金融緩和拡大(黒田バズーカ)の余波などを背景に円は下落基調を回復した。今回も、同様の展開になることは十分に考えられそうだ。
【ロシアルーブル/円(RUB/JPY)】
ロシアルーブル/円 為替チャート・FXチャート | 外為どっとコムのFX |
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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