執筆日時:2021年11月1日10時00分
執筆者:株式会社外為どっとコム総合研究所 小野 直人
1.はじめに
2.前回のおさらい
3.今回の見どころ
4.今回の戦略
1.はじめに
2021年11月5日(金)、日本時間21時30分に米国で10月雇用統計が発表されます。エネルギーなどコモディティ価格の上昇から何かと物価上昇圧力が醸成されやすいおり、同統計がテーパリングと利上げを完全に区別しようとするパウエルFRB議長の筋書きにどう影響するのか楽しみです。また、新規のコロナ陽性者が減少傾向だった一方、ワクチン接種率は頭打ちとどちらが雇用市場により影響を及ぼしているのかにも着目です。なお、次回以降から米国は冬時間のため米雇用統計は日本時間22時30分発表となりますのでご注意ください。
2.前回のおさらい
10月8日、米労働省が発表した9月の非農業部門雇用者数(NFP)は19.4万人増と、市場予想50.0万人増の半分以下となり、今年、最も低い伸びとなりました。教育関連の採用が終了した政府部門の下落が全体を圧迫したほか、製造業分野の人員増も5.2万人増と低水準にとどまったことが要因です。また、時間給の伸びは前月比0.6%増とインフレの継続性をうかがわせるなど、供給抑制の解消にはまだ時間が必要であることを示唆しました。
このように期待外れに思える前回の雇用統計ですが、前向きな材料も散見されています。それは小売業の回復です。7・8月は減少しましたが、9月は5.61万人増へ転じています。対照的にヘルスケアは1万人増にとどまり、コロナ変異種の悪影響が薄らぎつつある様子がうかがえました。失業保険給付の特例失効も考えれば、今後も雇用の持ち直しが期待され、そう悲観的な内容ではなさそうです。
結果公表直後に111.80円付近から111.50円近辺へ下振れしたドル/円は、1.61%へ上昇する米長期金利を横目にみながら112.25円と年初来高値を塗り替えました(その後、10月後半には114.70円付近まで上昇幅を拡大)。他方、株式市場は買いが先行したものの、テーパリング観測に変化はなさそうとのムードが広がると頭が重くなり、結局、ダウ平均は前日比8.69p安の34,746.25ドルでその週の取引を終えました。
図表1.分野別新規雇用者数(千人)
産業別 | Sep-20 | Jul-21 | Aug-21 | Sep-21 |
全体 | 716 | 1091 | 366 | 194 |
製造分野 | 91 | 74 | 37 | 52 |
鉱業・林業 | 3 | 5 | 6 | 4 |
建設業 | 33 | 12 | 0 | 22 |
製造 | 55 | 57 | 31 | 26 |
非製造業分野 | 841 | 742 | 295 | 265 |
倉庫 | 33.9 | 15 | -3.2 | 16.9 |
小売 | 29.50 | -6.1 | -3.8 | 56.1 |
運輸 | 44 | 56.1 | 54.5 | 47.3 |
公益(電気・ガス・水道) | 1.7 | 0.3 | -0.8 | -0.5 |
情報 | 42 | 19 | 29 | 32 |
金融・保険 | 38 | 31 | 11 | 2 |
専門・企業向け | 140 | 91 | 85 | 60 |
医療・教育 | 68 | 84 | 51 | -7 |
レジャー・娯楽 | 394 | 408 | 38 | 74 |
その他のサービス | 50 | 44 | 34 | -16 |
政府分野 | -216 | 275 | 34 | -123 |
出所:米国労働省
図表2.前回発表前後のドル円の動き
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
3.今回の見どころ
年内のテーパリング議論について市場は大筋で織り込みを完了し、投資家の視線はテーパリングの終了時期や利上げ開始時期がいつ頃になるのかへ遷移しつつあります。図表3.に示しましたが昨年6月からのNFPの増加幅は平均54万人増/月です。このペースでいけば来年6月ごろに雇用はコロナ前の水準に戻る見通しで、同時にテーパリングも一段落し年後半には利上げに踏み切れる環境が整うことが予想されます。
市場もこれを基本線と捉えているため、今後しばらくは雇用回復ペース鈍化、賃金上昇によるインフレ加速など、諸条件が利上げ開始時期を遅らせるのか、はたまた当局に早期の利上げ開始圧力をかけるのか見極める流れが続きそうです。今月の結果がこの部分へ何らかのヒントを与えるのか注目です。
図表3.非農業部門雇用者数の推移
データ:米労働省;Our World in Data、作成:外為どっとコム総研
さて10月の数字ですが、直近頭打ち感が意識される住宅建設を受けて建設関連の雇用の伸びは期待しづらいほか、バカンスシーズンを終えてサービス産業も小幅減の可能性がある一方、製造業分野や政府関連のマイナス効果は逆に薄らぎ、40万人増程度へ戻すのではとみています。ただ、この数字では昨年6月以降の平均値である54万人増には届かないため、この数字を少しだけ上回ってもポジティブサプライズは起きにくそうです。ぎりぎりポジティブサプライズとなるには、55万人増よりも強い結果が必要と考えます。
逆に、35万人増を下回ってくるようだと、米金融当局が想定する回復ペースへの不信感が高まりネガティブな反応になりそうです。そのため、35-55万人増を基本線にそれ以上なら強気、それ以下なら弱気ぐらいに分けたいと思います。①55万人増以上なら、米利上げ前倒しへの期待を想起させ米金利上昇を伴ってドル高。②35-55万人増のときは米金融当局の見通しに近い線とあって小幅なドル高、③35万人増以下ならドル高調整と言った流れを考えています。当然、時間給の強弱やエネルギー価格動向を受けた米国の長短金利差動向により、反応が一様に広がらないケースも想定されるだけに、柔軟な思考で臨みたいです。
筆者としては35-55万人増と言いたいところですが、直近、コロナ関連のニュースが低下しているほか、懸念された低年齢層への拡大が抑制され子供を持つ主婦層の再就職が伸びているのではとの考えから、55万人増まで持ち直す可能性は十分にあるように感じます。
☆想定するシナリオ
ケース① | 55万人以上 | 米利上げ前倒し観測を高めドル高+円安 |
ケース② | 35-55万人 | 現行シナリオ維持でドルは底堅い、原油の影響注視 |
ケース③ | 35万人以下 | 利上げ時期の後ろ倒し観測からドル安 |
図表4.米国の新規感染者数推移-7間平均
出所:Bloomberg、外為どっとコム
図表5[雇用統計の実績と予想]
年月 |
非農業雇用者数変化(万人) | 失業率(%) | ||||
予想値 | 実績値 | 修正値 | 予想値 | 実績値 | 修正値 | |
2021年 10月 | 45.0 | 4.7 | ||||
2021年 9月 | 50.0 | 19.4 | 5.1 | 4.8 | ||
2021年 8月 | 75 | 23.5 | 36.6 | 5.2 | 5.2 | – |
2021年 7月 | 87 | 94.3 | 105.3 | 5.7 | 5.4 | – |
2021年 6月 | 70 | 85 | 93.8 | 5.7 | 5.9 | – |
2021年 5月 | 65 | 55.9 | 58.3 | 5.9 | 5.8 | – |
年月 | 平均時給/前月比(%) | 労働参加率(%) | |
予想値 | 実績値 | 実績値 | |
2021年 10月 | 0.4 | ||
2021年 9月 | 0.4 | 0.6 | 61.6 |
2021年 8月 | 0.3 | 0.6 | 61.7 |
2021年 7月 | 0.3 | 0.4 | 61.7 |
2021年 6月 | 0.4 | 0.3 | 61.6 |
2021年 5月 | 0.2 | 0.5 | 61.6 |
◇関連の経済データ実績
年月 | ADP雇用統計(万人) | ||
予想値 | 実績値 | 修正値 | |
2021年 10月 | 40.0 | ||
2021年 9月 | 45.0 | 56.8 | |
2021年 8月 | 61.3 | 37.4 | 34.0 |
2021年 7月 | 69.5 | 33.0 | 32.6 |
2021年 6月 | 60.0 | 69.2 | 68.0 |
2021年 5月 | 65.0 | 97.8 | 88.6 |
出所:Bloomberg、外為どっとコム「経済指標カレンダー」
4.今回の戦略
臨機応変な対応心がけも、最終的には押し目買い
発表前の水準にもよるのですが、強い結果なら騰勢を強め2017年11月高値(114.73円)を上抜けて、115円台回復の期待が持てそうです。同ラインを越えた後は、2017年3月高値が付近にある115.50円、節目の116.00円が意識されます。他方、レンジでの着地となれば、10月に抑えられた114.70円を攻略できるかどうかが着目され、予想を下回った場合、10月上旬に示した押し目(110.82円)からの上昇幅の38.2%押しが付近にある節目の113.00円付近でサポートされるかどうかが注目されます。
また、113.00円を割り込んだときは、同50%押し水準となる112.75円近辺が目先の支持線となりそうです。指標結果の強弱に応じた取引を心掛けるべきですが、112.50円付近はサポート力が厚めとみたれるため、113.00円割れは押し目買いで対応したいです。
図表6.ドル/円チャート-日足
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
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