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権威主義国への株式投資と通貨投資の留意点を理解しトレードに役立てる「日本人の知らない香港情勢」戸田裕大

 

日本人の知らない香港情勢

こんにちは、戸田です。

本シリーズでは、発表された報道や、公表された経済データなどをもとに、香港や中国本土の最新の情勢について迫っていきます。香港ドル・人民元などの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。

第45回は「権威主義国への株式投資と通貨投資の留意点を理解しトレードに役立てる」でお届けいたします。

目次

1.ジミー・ライ氏の資産凍結から学ぶ
2.香港ドル相場のアップデート
3.人民元相場のアップデート

1.ジミー・ライ氏の資産凍結から学ぶ

本コラムでは、香港経済界の重鎮、ジミー・ライ氏についてこれまでに何度か取り上げてきました。氏は、香港の紙面を毎週のように賑わせていますので、改めて、簡単に解説します。

氏は、若い時に中国の広東省からボートで香港に渡り、ファッション・ブランド「ジョルダーノ」や、タブロイド紙「アップルデイリー」の創業人として名をはせ、一代で財を成した「香港ドリーマー」として広く知られています。

中国の権威主義体制ではなく、香港の民主的な風土を愛することでも知られているジミー・ライ氏ですが、昨年6月に施行された香港国家安全維持法により、反政府活動を先導した罪などに問われ、逮捕され、現在は刑務所で服役しています。

さらに先週末、香港政府は氏の個人資産に対して資産凍結を行いました。実はこれが単なる資産凍結ではなく、香港株式市場にまで影響が波及しています。

氏が大量に保有する「ネクスト・デジタル」社の株式、これが今週の月曜日から取引停止になっているのです。ネクスト・デジタル社は「アップルデイリー」社の親会社で氏が、株式の70%以上を保有していることから、香港証券取引所は、株式の流動性の低下や、思惑による株価の乱高下を懸念したのでしょう。

私は、この一件に対して、個人投資家が学べることが非常に多いと思います。

一点目が権威主義国の株式を保有するリスクはかなり大きいということです。政府の意向で、簡単に取引が停止になってしまう、そしてその情報は事前に丁寧に通知されることもない、そのリスクが表面化した事件だと思います。となると、当然、賢い投資家は香港への投資を避けるようになりますから、自然と香港の株式市場は衰退していくことになると思います。ようは香港への投資は、相当高いリターンが望まれる場合を除いて、避けた方が無難ということです。

二点目が、実は権威主義国の通貨を保有するリスクはそこまで大きくないと言うことです。なぜかと言うと、上述のように政府が現在の体制を維持するために、影響のある個人や法人を叩くリスクが絶えずつきまとうわけですが、一方で権力の象徴である「通貨」を取り潰すことはないからです。むしろ自国の通貨の価値をどのように安定させ、高めていくかは、国の非常に高い関心ごとと言えるのです。

親しみのない権威主義国への投資は不安・・・と思う方も多いと思います。しかしそこで考えが止まってしまっては、機会損失に繋がります。

世界は広く、さまざまな国があり、その国ごとにリスクは異なるものです。それを学んでいくことが重要ではないでしょうか。

2.香港ドル相場のアップデート

先週のドル円相場は、強い米4月消費者物価指数(結果+4.2%、目安+2%)を受けて、米国の早期のテーパリング(金融緩和縮小)が意識され、先週比ドル高の109.35円で週末を迎えました。週明けは、執筆段階では、小幅に安い109.10円前後で推移しており、新たな材料を待つ展開となっています。

このような状況を踏まえて、香港ドルを取り巻く環境を見て行きます。

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USD/HKD(米ドル/香港ドル:青色のライン)は、引き続き方向感が出ていません。今年に入ってから、香港金融管理局(中央銀行)が米ドルと香港ドルの3ヵ月物金利差をほぼゼロに収まるように調節しており、その効果が出ているように映ります。

HKD/JPY(香港ドル/日本円:茶色のライン)は、USD/HKDが動かない以上、ドル円とほぼ同じ軌道を描きます。つまりUSD/JPY次第です。

蛇足ですが、ドル円は現在108.50-109.70のレンジ相場にあると考えているので、レンジの中心、109.10あたりを挟んだ動きを想定しています。

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3.人民元相場のアップデート

最後に人民元を見て行きたいと思います。

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USD/CNH(米ドル/人民元:青色のライン)は、強い米4月消費者物価を受けて反発しましたが、戻りは売られました。今週はどちらに動くか正直に読みづらいですが、中長期的なドル安、人民元高観測は根強いことから、目線は下に見ています

CNH/JPY(人民元/日本円:赤いライン)は引き続き好調で、先週は一時17円台に突入しました。まだまだドル円も上昇しそうですし、ドル人民元も先安観がありますので、どの辺まで上昇するか現段階では検討がつきません。

以下のチャートをご覧ください。

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こちらはCNH/JPYの昨年4月からのチャートですが、基本的に買って、持ち続けていればどこから入っても勝っています。ちなみに私は14円台からきっちりロングを取っています。自画自賛ですがこれはナイスディールだと思います。

「いやいや、そんなにずっと持っていられないよ」と言うご意見もあろうかと思います。ですが、それはドル円やユーロ円と、人民元/円をごっちゃにしてしまっているからに他なりません。通貨ペアが異なれば、値動きの特徴も異なるのです。

なぜ人民元が強いのか、本コラムでは繰り返し説明しています。相対的に強い経済、健全な金融政策、高金利、人民元の国際化、過小評価された為替レートなどが主な理由です。

しっかり人民元を学び、千載一遇のチャンスを捉えておきましょう。


本日はここまでとなります。

引き続き注目度・影響度の高い、香港及び中国本土の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っております。引き続き、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

戸田裕大

<最新著書のご紹介>

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なぜ米国は中国に対して、これほどまでに強硬な姿勢を貫くのか?

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【インタビュー記事】

<参考文献・ご留意事項>

各種為替データ
https://Investing.com

South China Morning Post: Trading in Next Digital shares suspended after founder and top shareholder Jimmy Lai’s assets frozen
https://www.scmp.com/news/hong-kong/law-and-crime/article/3133720/hong-kong-stock-exchange-suspends-trading-next-digital

各種経済指標:Hong Kong Census and Statistics Department
https://www.censtatd.gov.hk/en/

【過去の「日本人の知らない香港情勢」はこちら】

株式会社トレジャリー・パートナーズ 代表取締役 戸田裕大 (とだ・ゆうだい)氏
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。