こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、発表された報道や現地の声、公表された経済データなどをもとに、香港や中国本土の最新の情勢について迫っていきます。香港ドル・人民元などの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。
第43回は「回復の兆しが見られる香港経済と底堅い人民元」でお届けいたします。
目次
1.香港経済指標に改善の兆し
2.日常を取り戻しつつある香港
3.為替相場のアップデート
1.香港経済指標に改善の兆し
まずは新たに公表された経済指標を追っていきたいと思います。結論から申し上げますと、香港の経済指標に、少しずつ改善の兆しが見られています。
まず香港の消費者物価ですが、昨年後半はデフレに陥りましたが、今年に入ってからは持ち直しの動きが見られており、3月の消費者物価指数は+0.5%と、まずまずの数値が出てきています。
次に失業率ですが、こちらは2月にSARS流行以来となる7.2%の高い(悪い)数値を記録しましたが、3月は0.4%低下し、6.8%まで改善しています。
それからJETRO(日本貿易振興機構)公表の、香港日系企業228社のアンケート結果をもとに作成したDI(ディフュージョン・インデックス)は+15.8と過去2年で最高の数値を示しています。
※DIは景気「改善」と回答した企業の割合から「悪化」および「大幅悪化」と回答した企業の割合を差し引いた数値です。詳細の転用は禁止されているため、文末の参考文献にリンクを添付しておきますので、ご興味ある方は、そちらから詳しくご覧ください。
発表された経済指標と、各種報道を追って感じることは、香港は、政治的な混迷からやや落ち着きを取り戻し、中国の景気回復に支えられ、徐々に景気が上向いてきていることです。落ち着いて、香港に投資が出来る状況ではないですが、最悪期からは転換していることが読み取れました。
2.日常を取り戻しつつある香港
香港では新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きつつあります。中国シノバック社のワクチンと、独バイオンテック社のワクチンを選択して接種出来る恵まれた環境の中で、新型コロナウイルスの拡大はほぼゼロに近い数値まで抑え込まれています。
このような状況の中、香港では4月29日から、スタッフ・顧客共にワクチン接種が完了していることを条件に、バーやナイトクラブが、4か月ぶりに営業を再開します。営業時刻は午前2時まで、1テーブルに最大2人など制限付きではありますが、とても大きな前進と思います。
またレストランも条件が緩和され、夜10時までの営業が深夜まで、1テーブル4人までの制限が6人まで、それぞれ上限が開放されます。ただし条件付きで、政府公認のアプリを使用して感染状況を報告している顧客に限定されるそうです。
経済指標にも現れていますが、少しずつ香港の景気持ち直しの動きが鮮明になってきた、そのような1週間だったと思います。
3.為替相場のアップデート
先週のドル円相場は、円高に拍車が掛かりました。火曜日に108円を割り込むと、週末にはドル円調整の目安となる107.80円を割り込み、一時107.48円まで下落しましたが、その後は反発し、週末は107.88円付近でクローズ、月曜日執筆時点においては107.75円前後で小幅に推移しています。今週は日米の金融政策決定会合や米国の第一四半期GDPなど見所も多く、これらを見極める展開になると考えられます。
このような状況を踏まえて、香港ドルを取り巻く環境を見て行きます。
USD/HKD(米ドル/香港ドル:青色のライン)は、米ドル安、香港ドル高に振れていることが確認出来ます。主要因は米ドル安と思いますが、香港の経済指標や景気とも連動しているようにも見えます。
少し状況が変わってきたのが、米ドルと香港ドルの金利環境です。3ヵ月物の市場金利は香港ドル金利が米ドル金利をギリギリ下回る水準になっていることが確認できます。
USD/HKDのトレードでは特に金利差が注目されていますので、香港ドル金利が低下していることは頭に入れておいた方が良いと思います。
HKD/JPY(香港ドル/日本円:茶色のライン)については、ドル円の下落につれて、13.90を割り込んでいます。私的には、そろそろドル円の調整も収束すると思っていますので、HKD/JPYも大きく下がらないと考えていますが、買うのであれば、後述しますが人民元を推したいです。
次に人民元を見て行きたいと思います。
USD/CNH(米ドル/人民元:青色のライン)はドル安の流れを受け、ドル安・人民元高が続いています。2月から時間を掛けてドル高に進んできたUSD/CNHですが、4月に入って、年初からじわじわと続いたドル高分を解消するなど、日本円と比べて、人民元高サイドへの戻りの強さを感じています。
CNH/JPY(人民元/日本円:赤色のライン)はやはり、底堅いです。ドル円に大きく調整が入る中でも下落幅は限定的で、ドル円よりもCNH/JPYのロングが手堅いと改めて認識しているところです。
また、4月26日に発表された、SWIFT社の人民元レポートによれば、3月の人民元の国際決済比率は過去最高の2.49%を記録するなど、人民元の国際化がじわじわと進んでいることも、人民元の底堅さに影響しているように思います。
最後にいつものドル円との比較表を添付します。やはり人民元が底堅いです。これは単なる事実ですから、中国が好きとか嫌いとか関係なく、勝ちたいならドル円よりも人民元を買っていくのが正解と思います。
それでは本日はここまでとなります。
引き続き注目度・影響度の高い、香港及び中国本土の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っております。引き続き、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
戸田裕大
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<参考文献・ご留意事項>
各種為替データ
https://Investing.com
新型コロナウイルス・データ
COVID-19 Data Repository by the Center for Systems Science and Engineering (CSSE) at Johns Hopkins University
South China Morning Post: Hong Kong bars set for April 29 comeback after four-month closure amid pandemic, but terms include customers, staff getting vaccinated
https://www.scmp.com/news/hong-kong/hong-kong-economy/article/3130887/coronavirus-hong-kong-bars-set-april-29-comeback
各種経済指標:Hong Kong Census and Statistics Department
https://www.censtatd.gov.hk/en/
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。