こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、発表された報道や現地の声、公表された経済データなどをもとに、香港の最新の情勢について迫っていきます。香港ドル・人民元などの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。
第24回は「鬼の居ぬ間の経済連携強化 主役は中国と人民元」でお届けいたします。
それでは、さっそく本題に入っていきます。
目次
1.施政方針演説 強調された「一国二制度」の堅持
2.米国の「空白期」に強化される日中経済連携
3.香港ドルと人民元相場のアップデート
1.施政方針演説 強調された「一国二制度」の堅持
11月25日に香港で年に一度の施政方針演説が行われ、1年間の政府の基本方針や政策が発表されました。もともとは10月に予定されていたのですが、キャリーラム行政長官は中央政府と綿密な話し合いが必要だとして11月3日から7日にかけて、北京・広州・深センに赴き、意見交換を行ったためにこの時期までずれ込んでいたものです。
演説内容の中心に据えられたのは、「一国二制度」の堅持でした。演説の最初、それから最後に香港の一国二制度の重要性が強調されており、特に海外メディアに対して「一国二制度」は維持されていると強く主張しているように感じました。
さらに一国二制度に関する習近平国家主席の意見も明示されており、そこには4つの必要不可欠な考え方、すなわち一国二制度とは、「中華人民共和国憲法」「香港基本法」のもと、「経済の発展」「社会の安定」に寄与するであるべきだということも伝えられました。これは香港居民に向けて、法を順守することが出来れば、それが社会の安定・経済の発展に繋がる、香港のより良い未来につながると言うメッセージだと思います。
その他に、香港は、広東省・香港・マカオを結ぶグレーター・ベイ・エリア構想に力を入れていくこと、一帯一路における海外投資家の窓口としてのポジションを固めること、香港はRCEPに追加加盟するための良いポジションにいることなどが報告されました。
全体的に見れば、施政方針演説では経済的なメリットを前面に打ち出して、そのうえで社会の安定のために国家安全維持法が施行されていることを香港居民に伝えたい意向があると感じました。これを受けて、香港居民がどのように行動を起こすのか、この点が、香港情勢を占う上で、今後の注目点になってくると思います。
2.米国の「空白期」に強化される日中経済連携
徐々に米国の次期体制も明らかになりつつありますが、政権の過渡期において日中関係の強化が図られている点に中国の抜け目のなさが際立ちます。先週も触れましたが中国のRCEP加盟とTPPへの興味、香港のRCEPへの関心などはまさにその代表的な動きであると思います。
さらに先週25日は菅首相が首相官邸で中国の王毅(ワン・イー)外相と会談を実施しました。これは新政権において、菅首相が初めて海外要人との面談を設けた出来事だったようです。
その際に急遽、日中両政府は11月30日から短期出張や長期の駐在員などを対象に両国の往来を再開すると発表するなど、両国の経済連携に関する慌ただしい動きも見られました。
米国が政権移行でもたついている最中に、日本と中国の関係が強化されている、さらに菅政権は安倍政権と比較すると中国との経済関係を重視しているように映ります。バイデン政権が始動したときに、どのような跳ね返りが待っているのか、日本は踏み絵を踏まされるのか、少し恐ろしいところもありますが、もう引き返せないでしょう。
今後の展開として、ベストシナリオは、日本はRCEPで中国と良好な関係を築きつつ、バイデン政権下の米国がTPPに再加盟、日本がRCEPとTPP双方で影響力を発揮し、中国と米国に対して共に良好な関係を築くことだと思います。これが上手く運べば、日本の金融市場はしばらく底堅く推移するのではないでしょうか。その際は、為替は円高が基本シナリオです。
3.香港ドルと人民元相場のアップデート
さて恒例の相場環境の確認です。まずは香港ドルから見ていきましょう。
香港ドル/日本円(HKD/JPY)はじり安の展開が続いています。本来は、今の水準よりも香港ドル高の水準で推移しているはずなのですが、米ドル/香港ドル(USD/HKD)がレンジの下限である1USD=7.75HKDで香港中銀により意図的に維持されているため、香港ドル高の勢いが相場に反映されていません。従ってHKD/JPYも、まるでドル円のチャート同じように下方向へ、だらだらとした推移が続いています。
米ドル/香港ドル(USD/HKD)については、ドル安が大きな相場のテーマとなっている以上、USD/HKDのUSDショートが最もワークするはずなのですが、こちらも香港中銀の為替介入により支えられ続けていることから1USD=7.75HKDでの攻防が続いています。過去にスイス中銀が、ユーロ/スイスフラン(EUR/CHF)において香港中銀と同様の為替介入を行っていましたが、最後にはEUR安CHF高の水準に為替を切り下げたこともありました。これと同様のことが香港でも起こるのか?来年あたりにおこっても全く不思議ではないと考えています。
次に人民元を見ていきます。
先週は若干売られましたが、まだまだ人民元高の勢いが強いと見るのが妥当でしょう。人民元/日本円(CNH/JPY)は年初の水準に戻ってきており、コロナウイルスが猛威を振るった3月頃と比べれば見違えるレベルまで値を戻してきました。今年はもうクリスマスのシーズンに入り、市場参加者も減少してきますから、さらにもう一段の人民元高があるとは思っていないのですが、来年のバイデン政権下のアメリカの動きをみながら、為替相場の注目は米ドル/人民元(USD/CNH)に集まり、バイデン政権の国際的な影響力が低下していけば、来年も素直にUSD/CNHは売られていくことになると思います。
RCEPへの加盟、TPPへの関心、日本の囲い込み、一帯一路、とどまることを知らない中国の勢いは、国際政治の間だけでなく、金融市場の中心の話題になりつつあります。中国の一挙手一投足を追っていくことは、言ってみれば金融市場を追っていることに繋がります。相場の中で、全体の感覚をつかむためにも、ぜひ人民元を保有してみることをおススメしたいと思います。
相場の全体感としては、本日から12月入りとあって少しずつ薄商いになっていくことが想定されます。来年1月は米国の政権移行も行われる予定ですので、来年になれば大きな動きが出てくるかもしれません。12月は来年の動きを考える月、そんな1ヵ月にしたいですね。
本日はここまでとなります。
引き続き注目度・影響度の高い、香港及び中国本土の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っております。ご支援のほどよろしくお願いいたします。
それでは、またの機会にお会いしましょう。
戸田裕大
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【インタビュー記事】
【過去記事】
<参考文献・ご留意事項>
各種為替データ
https://Investing.com
The Chief Executive's 2020 Policy Address
https://www.policyaddress.gov.hk/2020/eng/policy.html
日本経済新聞:首相、中国外相に尖閣の懸念伝える 習氏来日は言及せず
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66627190V21C20A1MM8000
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。