日本人の投資に対する意識がなかなか変わらない状況や理由を解説していただいた前編に続いて後編では、テクニカル分析で投資をすることのメリット、テクニカル分析で投資をする際の心構え、初心者が最初に覚えるべき手法、そして大西氏が金融の世界に飛び込んだきっかけや今後の目標などについて語っていただいた。
▼目次
1.初心者は移動平均線とRSIを押さえよ
2.複数のテクニカル分析で相場の方向性を示す「ぴたんこテクニカル」の評価は?!
3.テクニカルは主観を排除できる
4.テクニカルでやるならファンダは見ない
5.FXでポートフォリオを組んでみよう
6.投資をやれば人生に厚みが増す
7.ディーラーとして自由に売買したかった
8.投巨大な個人資産がある日本は優位だ
~前編はこちら~
「投資立国」で日本を豊かに(前編)デフレの成功体験から抜け出せない日本人
■初心者は移動平均線とRSIを押さえよ
編集部:- 初心者がテクニカル分析を勉強するには、どこから始めるのが効率的でしょうか?
大西氏:- 私の書籍で言えば、「そもそも投資とは何か」「価格形成のメカニズムとは?」など基礎的なことから始めて、「暗号資産ができるまで」といったところまで順番に読み進めてもらうのが、遠回りに見えて、実はいいかもしれません。以前勤務していたドイツ銀行グループでは、外国為替業務に初めて携わるお客さま向けに3日間、集中講座を実施していました。弊社(FXcoin)でも、投資の裾野を広げる活動を少しずつですが、いずれはやっていきたいと思っています。
編集部:- 大西さんは5つのテクニカル分析を使った「マトリクス投資法」を開発し、提唱されています。その成り立ちについて教えてください。
大西氏:- いろいろ試しましたが、この5つが結果的にいちばん「当たった」ものであり、分かりやすいものですね。数値化されていて、プラス10からマイナス10まで、100万円を運用するのであれば、スコアがプラス5だったら50万円分買えばいいし、マイナス7だったら70万円分売ればいい。機械的に冷静に取引を執行できるんです。
※ 大西氏は自身が選んだ5つのテクニカル分析において、明確なスコアリングルールを設定し、それを判断基準としてシグナルを数値化している。ドル/円相場で最大ポジション枠を100万円としている場合、上記の事例では、買いシグナルが合計でプラス5ポイントなので、50万円のロング(ドル買い・円売り)ポジションを持つことになる。相場が想定外の動きを示したときでも、しっかりと対処できるようになるためには、「ルールを事前に決めておく」ということが一番大切だと大西氏は説いている。
編集部:- ただ複数のテクニカル分析は初心者には大変かもしれません。どのテクニカル分析から覚えたらいいでしょうか。
大西氏:- 移動平均線とRSIでしょうね。テクニカル分析は大きく分けて、トレンド系とオシレーター系とありますけども、トレンド系で代表的なものは移動平均線でしょう。20日間の移動平均線であれば、20日間における相場の方向性を知ることができます。オシレーター系で代表的なものはRSIで、「買われすぎ」「売られすぎ」などの相場の状態を知ることができます。
編集部:- なるほど。
大西氏:- 本当はね、ダイバージェンスなどいろいろ言い出したら、オシレーター系のRSIでもトレンド系の使い方もできますが、まずはそのふたつからですね。
■複数のテクニカル分析で相場の方向性を示す「ぴたんこテクニカル」の評価は?!
編集部:- ところで、外為どっとコムでもユーザーのために、テクニカル分析ツールをいろいろと提供していて、その中に、複数のテクニカル分析で相場の方向性を示す「ぴたんこテクニカル」というツールがあるのですが、大西さんはご存知でしたでしょうか?
大西氏:- ええ、なかなか使いやすくていいと思いますよ。「ぴたんこテクニカル」は、プロから見ても、必要な機能が十分満たされていて、操作性も優れているし、これからテクニカル分析を始めようとする人にもわかりやすいはずです。“お天気シグナル”などはうまく考えましたね。また、移動平均線、一目均衡表、RSIなどの複数の分析ツールが、それぞれ「買い」か「売り」を客観的に示していて、私の「マトリクス投資法」にも通じるものがあるなと思いました。
FXチャートのテクニカル分析ツール「ぴたんこテクニカル」の画面 ※「ぴたんこテクニカル」は外為どっとコムが提供する投資情報支援ツールのひとつで、高度なテクニカル分析をコンピュータで計算し、市場の方向性が解りやすく、直感的に判断することができる。
■テクニカルは主観を排除できる
編集部:- テクニカル分析で投資するメリットを、もう少し詳しく教えてください。
大西氏:- テクニカル分析のいいところは、主観を排除できるところです。一方のファンダメンタルズ分析は、いろんな数値に対して、いつも解釈の余地が生じます。例えば、日本のGDP成長率がマイナス2.7%に低下したからといって、円が売られるかというと、必ずしもそうではありません。むしろ買われることもあります。その数字をもとに、他の材料も考慮して総合的に解釈して、主観を入れて判断しなきゃいけない。ところが、テクニカル分析の場合は、ゴールデンクロスが出たら、誰が何と言おうと買いシグナルになりますよね。また、ドル/円相場で、「過去に2回112円で止まっていました」って言うと、結果的に上抜けするかもしれないですが、「112円がレジスタンスとなって、相場が止められやすい」と判断することに、反論する人は少ないと思います。
編集部:- 言い換えると、テクニカル分析は客観的ということですね。
大西氏:- 損しているときは、冷静な判断が下しにくくなります。それにもかかわらず、主観で判断していると、心理的にバイアスがかかった見方をして、とにかく自分に都合がいいように考えたくなってしまうものです。そうなると損切りのタイミングが遅れるなど後悔が残る取引となる可能性が高まります。そういう主観を排除し、ルールをあらかじめ決めておいて、淡々と売買が実行できる点が、テクニカル分析のいいところなのです。
■テクニカルでやるならファンダは見ない
編集部:- ひとつでも複数でも投資判断がブレなければいいということでしょうか?
大西氏:- 複数を使ったほうが合理的かもしれません。ただ、ひとつだけだったとしても、それはそれでいいと思います。「一目均衡表を信じているから、もう最初からこれ一本で、雲を超えたら買う」と決めておいて、事前に動けるのなら、それはそれでいいと思います。私の個人的な考えですが、例えば“一目(均衡表)”の雲を越えたときも、雲が「薄いときに超えたとき」と「分厚いときに超えたとき」があったら、そのときに基準線が上向いているのか、下向いているのかなど、同じシグナルでも“強い”“弱い”が出てきます。そうなると主観で判断しなければならなくなる。だったら、全体的に“マトリクス”で見るようにして、機械的に行ったほうが冷静に取引できます。熱くなって、ナンピンを入れてしまうようなことにはならないでしょう。
編集部:- 雇用統計などの重要な指標の発表や、政治・経済などのニュースはいっそのこと考慮しないほうがいいのでしょうか。
大西氏:- 「チャートの中にすべての答えがある」というか、ファンダメンタルズの全材料がチャートには織り込まれているというのがテクニカル分析の大前提です。「今回はたまたまテロがあったから」などと言い出すと、もうテクニカル分析ではなくて、ファンダメンタルズ分析なのです。テクニカル分析でやるというのであれば、ファンダメンタルズを一切捨てることです。テクニカル分析だけでやると、もし決心したのなら、ファンダメンタルズは見ないようにするぐらいでないと、テクニカル分析の良さは失われてしまいます。
■FXでポートフォリオを組んでみよう
編集部:- 書籍の中でFXを外貨預金のように使うことを提案されています。
大西氏:- ポートフォリオの一環として、資産の2割を外貨で持っておくということですね。銀行の外貨預金ではなくFX会社に入れておく。差益を稼ぐというよりも、資産形成ですよね。わずかかもしれませんが、可能性として円の価値が極端に下がるということは、誰も否定ができません。だから金融資産のうちの1~2割を外貨で持っておくことは悪くありません。FXは取引コストが安いし、外貨預金の代わりに使える金融商品ととらえることもできます。
編集部:- それは魅力的ですね。
大西氏:- 資産形成でポートフォリオを組むときに大事なのは、コストをどこまで抑えられるかだと考えています。資産の2割を外貨建てで持つときに、何が最も低コストになるかというと答えはFXになります。しかも、選んだ通貨によっては、二国間の金利差によるスワップ収入もあります。コストが低く抑えられるうえ、スワップポイントのほうが、銀行の外貨預金につく金利よりも、多くの場合、高くなりますから、FXのほうがいいと思いますよ。
編集部:- 外貨資産の持ち方として、通貨はひとつがいいですか、それとも複数がいいですか。
大西氏:- ポートフォリオの目的はリスク分散です。「円とドルを持っています」というのは、円とドルのふたつに“ベット(Bet)”しているわけですよ。でも、リスク分散ということであれば、ユーロや英ポンドも入れたほうがリスクは分散できることになります。そういう意味では、FXでの分散投資は銀行の外貨預金よりも簡単です。外貨預金だと通貨ごとに分けて預金を行う必要がありますから。
編集部:- 外貨資産のポートフォリオは、銀行預金よりもFXは簡単にできると。
大西氏:- おまけに、南アランドやトルコリラといった高金利通貨も入れておくと「こういう収入(スワップポイント)があるのだな」と分かると思います。ただし、金利が高い分だけ、通貨の価値が落ちるときは激しい傾向があることも、頭に入れておかないといけません。
■投資をやれば人生に厚みが増す
編集部:- 大西さんご自身もFXでポートフォリオを持って資産運用されているのですか?
大西氏:- 前職は会社のルールでFXはできませんでしたが、その会社を辞めてからはやっています。僕自身は相場が好きなので、ポートフォリオを組んだ上で、売ったり買ったり、勝ったり負けたりしています(笑)。それに誰でもそうだと思いますが、自分自身でやってないと、相場をちゃんと見ないですよ。
編集部:- そうですよね。
大西氏:- もう一点、強調したいことは、金融資産の投資が本当にいいのは、世の中に対するアンテナが高くなることです。私は学生時代から株や為替をやっていたんです。バブル時代だったので、すごく利益がでたこともありますが、それ以上に、新聞の読み方が完全に変わりました。「今年は猛暑が続きそうだ」という記事があると、それまでは「暑くなるなあ」で終わっていたのが、「これはビールが売れるな。飲料会社の株を買ってみるか」となるんです。マクロ経済の視点で言えば、「日米貿易摩擦で日米関係が悪くなったら、アメリカが為替でプレッシャーかけてくるので円高になるだろう」というように、いろんなニュースが自分の資産に、直接影響を与えるものになりました。さまざまなことに興味が広がり、知識も身について、大げさな言い方かもしれませんが、人生の「厚み」が増したような気分になりました。
■ディーラーとして自由に売買したかった
編集部:- そもそも投資に興味を持った理由は何ですか。
大西氏:- 親がやっていたからでしょうね。もうひとつは、「根っからの勝負好き」ということがあるかもしれません。
編集部:- 最初は株ですか。
大西氏:- 最初は株ですが、為替もほとんど同時でした。
編集部:- 金融の仕事を選ばれたのは、その“延長線上”ということですか?
大西氏:- そうですね。最初に入った東京銀行は“ディーラー”の銀行でしたので、自分で売ったり買ったりできるのがいいと思い、為替部門を希望して入りました。
編集部:- 投資ということなら証券会社もあります。その選択肢は考えなかったのですか?
大西氏:- 会社訪問で話を聞いて分かったのですが、いい証券マンの条件は、会社から決められた銘柄や商品を、お客さまにたくさん売ることなのです。現在は、そうでないのかもしれませんが、当時は、いくら自分で「これは上がりそう」と思っても、勝手にお客さまに勧めてはいけないというんです。一方で、為替ディーラーは自分で売買して、利益が出せればいいという世界です。やっぱり「自分でやるほうがいい」と思って、自分の判断でポジションを持つ世界を選びました。後に営業職もやりましたが、お客さまとの交渉など、人を相手にするよりも、自己責任で相場を相手にするディーラー職のほうが、納得感はありましたね。
■巨大な個人資産がある日本は優位だ
編集部:- そのように若い頃から金融の世界に興味を持ち、実際にディーラーとしても活躍してこられた大西さんに、この世界のトップランナーとしてのビジョンをうかがいます。日本人の資産運用に関心をお持ちですが、今後、日本人の資産運用をどのように変えていきたいですか。
大西氏:- われわれの両親や祖父母の世代は戦後の悲惨な状況から短期間で日本を復興させて、世界でも有数の非常に豊かな国にしてくれました。これはやっぱり「モノづくり大国ジャパン」の名にふさわしい本当にいいものを努力して作ってきてくれたからです。おかげで日本は他国に比べて、安全で快適な生活ができる国になったと思います。私たちは親世代、祖父母の世代に大いに感謝すべきでしょうね。しかし、日本のモノづくりにおける相対的優位性は、20~30年前と比べて低下しています。1960年代から80年代にかけて圧倒的に優位だったのに、いいモノを作ったとしても、アジア諸国の追い上げにあい、2010年代に入ると、中国にGDPで抜かれました。
編集部:- 日本は果たして逆転することができるでしょうか。
大西氏:- 私は個人の金融資産に鍵があると思います。日銀によると、2019年末時点で家計の金融資産残高は約1900兆円です。個人でこんなにお金を持っている国は、アメリカと日本くらいです。勝負の世界では、とにかく得意なところで、勝てるものを探すこと。どんなにアジア諸国や新興国が追いかけてきても、この点では日本が圧倒的優位にあります。
編集部:- つまり、その優位性を生かして、日本人がさらに豊かになれるようなことに取り組まれるということでしょうか?
大西氏:- わが社(Fxcoin)は基本理念のひとつに「日本人の金融リテラシー向上」を掲げています。個人の金融リテラシーが向上し、投資によって金融資産を有効に使うようになれば、日本人はもっと豊かにになれるのではないでしょうか。「モノづくり大国」から「投資大国」への転換を促すことが、金融の世界に身を置く私たちの使命だと考えています。
編集部:- 先代が作ってくれたストックを有効に使って、国をもっと豊かにしたいということですね。
大西氏:- 私は常にそのことを意識して仕事をしてきました。6月に香港で国家安全維持法ができて、国際金融センターの役割を担ってきた香港の立場が危ぶまれています。おそらく日本とシンガポールでポジションの取り合いになるでしょう。日本には1900兆円のストックがあり、すでに大きな金融市場もあります。日本にとっては大きなチャンスです。その日に向けて、われわれも日本が投資大国になれるように、お手伝いをしていきたいと思っています。
編集部:- 今日はどうもありがとうございました。
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「投資立国」で日本を豊かに(前編)デフレの成功体験から抜け出せない日本人
FXcoin株式会社 代表取締役社長 1990年慶応義塾大学経済学部卒業後、東京銀行に入行。その後、ドイツ東京銀行、ドレスナー銀行、JPモルガン銀行、モルガン・スタンレー証券など、常に外国為替業務に携わってきた。 「J-MONEY」誌において2011年〜13年および2017年テクニカル分析ディーラーランキング1位に輝く。日本金融学会員。経済学博士。前東京外国為替市場委員会副議長。