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【変化する政局】中国はTPP 香港はRCEPへの加盟を検討 「日本人の知らない香港情勢」戸田裕大

日本人の知らない香港情勢

こんにちは、戸田です。

本シリーズでは、発表された報道や現地の声、公表された経済データなどをもとに、香港の最新の情勢について迫っていきます。香港ドル・人民元などの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。

第23回は「【変化する政局】中国はTPP 香港はRCEPへの加盟を検討」でお届けいたします。

それでは、さっそく本題に入っていきます。

目次

1. 中国はTPP11、香港はRCEPにそれぞれ加盟を検討
2. 香港の施政方針演説日程確定=11月25日(水)日本時間12時~
3.香港ドルと人民元相場のアップデート

1.中国はTPP11、香港はRCEPにそれぞれ加盟を検討

世界の政局が大きく変化してきました。

米国が大統領選挙の余波に揺れる間に、日本・中国を含む15ヵ国がRCEP(東アジア地域包括的経済連携)に署名したのが今月15日です。そして先週金曜日、20日に中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が、TPP11(環太平洋パートナーシップ協定)への参加を「積極的に考える」と明言し、さらに世界を驚かせました。

TPP11はその条項を読むとわかるのですが、第17章全体が国有企業及び指定独占企業に関する規定となっており、例えば17章6条では「いずれの締約国も、自国の国有企業に対して非商業的な援助によって、直接又は間接に提供する商品またはサービスの提供に関して、他の締約国の利益に悪影響を及ぼしてはならない。」と規定するなど、国の支援を受けた企業が企業間競争に加わることに関して制限を加えています。となると国と企業が密接に絡み合う中国は、それらを順守してでもTPP11に参加したいと言う事なのか、それともルールを緩めるようにTPP11の参加国と交渉をするのか、おそらくは後者ではないか?としてとかく波紋を呼ぶ参加表明だったわけです。

さらに先週、香港の商務経済発展長官エドワード・ヨウ氏が、RCEPへの参加意思を表明しました。そしてこの参加意思にこたえる形で、中国商務省の報道担当を務める高峰氏が、「中国は香港がRCEPなど地域的な経済連携に参加することを支援する」と表明したのです。

米国が内部で揉めている隙に、中国は地域的な経済連携を深める動きを加速させ、日本はそれに応えています。仮にこれらの連携が加速すれば、日本はより一層、中国との経済的な結びつきが強くなる一方で、米国の立場及び、日米関係は反対に難しいものとなっていくでしょう。

いま日本の動きが世界から注目されていると言っても過言ではないと思います。

2.香港の施政方針演説日程確定=11月25日(水)日本時間12時~

こちらもビッグニュースです。

香港では毎年10月に施政方針演説、すなわち1年間の政府の基本方針や政策が発表されます。ところが今年は新型コロナウイルスによる経済への悪影響(過去最大の失業率6.4%に達し、GDP5四半期連続のマイナス成長を記録)をはじめ、香港国家安全維持法の制定とそれに伴うデモ活動の激化、米国による香港自治法案の改正、中央政府による深セン経済特区の強化など、激動の1年であったことは記憶に新しいところです。そこでキャリーラム行政長官は今後の香港の方針について中央政府と綿密な話合いが必要だとして、演説を延期していました。そしていよいよ中央政府との打ち合わせも終わり、施政方針を発表するとして、その日程が11月15日(水)日本時間12時~に決定したのです。

これは今後の香港を占う上で、特に重要なイベントとなります。報道に関する規制が強まり、ジミーライ氏や周庭氏などに有罪判決が下され、民主派の立法府の議員が総辞職を行うという今まででは考えられない事態の中で、国民の不安は我々が想像することが難しいほどに大きいのではないかと推測されます。そのような中で行われる施政方針演説がどのような内容になるのか、国民に安心感をもたらすことが出来るのか、高い関心を持って見守りたいと思います。

ご参考まで、視聴のURLを添付いたします。
https://webcast.legco.gov.hk/public/en-us

なお昨年の施政方針演説は民主派議員の大反発により、中止となり、ビデオ配信となりました。ですから今年もこれに合わせてデモの火が広がるということも十分にあり得ます。金融市場のリスク要因と言う意味でも、しっかりウォッチしておきたいところです。

3.香港ドルと人民元相場のアップデート

さて恒例の相場分析です。

香港ドルですが、引き続き反発の兆しがみられています。長らく1USD = 7.75HKDで張り付いていましたが、少しずつ乖離がみられていることについて、先々週から述べてまいりました。

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もう少し詳しくみていくと、香港中銀の自国通貨(HKD)売りの為替介入が減少していることが見えてきます。10月までは今年最大の為替介入金額を記録していましたが、11月に入ってからは為替介入の実施形跡がみられなくなりました。つまり香港ドルを売らなくても相場の均衡が維持できるようになってきたということで、香港ドル買いの勢いが弱まっていることが以下の図より確認できます。

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特に政治的な不確定要素は多いですが、米ドル買い、香港ドル売りのポジションメイクはここから面白いトレードアイデアになりそうです。

一方で人民元高の勢いは止まりません。対円こそ15.80台で揉みあっていますが、対ドルは1USD=6.53CNH台まで低下しました。

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要因は複数ありますが、まずは引き続き米中金利差が拡大していることを挙げておきます。以下の図をご確認ください。

f:id:gaitamesk:20201124102732p:plain

米国は新型コロナウイルスの被害が過去最大に膨れ上がる中、景気下支えのためにゼロ金利政策を継続していますが、一方で中国は、新規感染者を抑えて経済を持ち直し、金利正常化へと向かい人民元金利が上昇、結果として米中金利差が拡大していることが確認できます。

RCEPにTPP11と、その交渉の過程のなかで遺憾なくその存在感と影響力を発揮している中国。結局、我々が好むか好まざるかに関わらず、向き合わなくてはならない相手なので、しっかりと調査・分析を行うのが吉なのではないかと思う次第です。


本日はここまでとなります。

引き続き注目度・影響度の高い、香港及び中国本土の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っております。ご支援のほどよろしくお願いいたします。

それでは、またの機会にお会いしましょう。

戸田裕大

<最新著書のご紹介>

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【インタビュー記事】

【過去記事】

 

<参考文献・ご留意事項>

<時事情報>
政府新聞網:Policy Address set for Nov 25
https://www.news.gov.hk/eng/2020/11/20201123/20201123_180325_598.html

日本経済新聞:中国のTPP参加、動向注視 経財相
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66528560R21C20A1EA3000/

日本経済新聞:習氏、TPP参加「積極的に検討」 APEC首脳会議
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66467330Q0A121C2MM8000/

South China Morning Post:Asean has no reason to stop Hong Kong joining world’s biggest free-trade pact, says director of bloc’s secretariat
https://www.scmp.com/news/hong-kong/hong-kong-economy/article/3110894/asean-has-no-reason-stop-hong-kong-joining-worlds

<相場情報>
各種為替データ
https://Investing.com

Hong Kong Monetary Authority:為替介入実施金額
https://www.hkma.gov.hk/eng/

株式会社トレジャリー・パートナーズ 代表取締役 戸田裕大 (とだ・ゆうだい)氏
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。