こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、発表された報道や現地の声、公表された経済データなどをもとに、香港の最新の情勢について迫っていきます。中国や香港とのビジネスや投資、米ドル・人民元・香港ドルといった通貨の、売買のご参考にして頂ければ幸いです。
さて第16回は「低迷する香港金融市場と、国慶節中の相場変動リスクについて」でお届けいたします。
それでは、本題に入っていきます。
目次
1.やはり香港・国家安全維持法はターニングポイントだった
2.今後の香港はどうなっていくのか?
1.やはり香港・国家安全維持法はターニングポイントだった
さて、5月の全人代を経て、6月末から施行された香港・国家安全維持法ですが、その後、香港では毎週のように政情不安を感じさせる報道が聞こえてきています。
それでは、現在の状況は一体どうようになっているのでしょうか?まずは経済の先行き見通しと関連の深い、株式市場の反応をみていきます。
上図は年初の数値を100とした各国株価の推移ですが、青い円で囲っている箇所が5月末、中国の全人代で香港・国家安全維持法が可決された時期です。そして、そこから香港株(ハンセン:茶色の線)だけが、他国(日・米・中)と比べて、約20%低迷していることが見て取れると思います。
特に最近の不調ぶりは、目に余ります。これが世界の投資家からみる現在の香港と言うのが正しい表現かと思います。
2.今後の香港はどうなっていくのか?
先週、今週と新たに以下のような報道が入ってきました。
・香港警察は24日、著名な民主活動家の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏を逮捕
・28日、香港民主派議員が2名辞職
・自由党の党首のFelix Chung Kwok-pan氏は、中国本土から、米外交使節と香港政治家との面談には中国本土の承認が必要と指摘された
詳細は割愛しますが、より一層、中国本土の色の強い政治体制が出来上がりつつあると言うのが、今の香港の変化です。
そして、これは前回も少し触れましたが、GBA(グレーターベイエリア、いわゆる広東省+マカオ)との連携を深めつつ、中国企業の香港上場を迎え入れていくと言うのが今後の規定路線になると思います。
そして、香港を待ち受ける問題はまだ続きます。今週1日(木)から中華圏は国慶節休暇に入ります。中国は8日(火)までお休みです。
昨年はこの国慶節休暇中に2014年から続く抗議活動(傘を持った市民が集結する、いわゆる雨傘運動)の流れを汲むデモ隊が香港の街に溢れかえりました。そして今年も休み期間中のデモ活動について、すでに政府と民間の間で議論が行われています。
政府の立場としては、新型コロナウイルス下の運用ルールを参照し、休み期間中のデモは違法であるとしていますが、民間の人権団体はこれに反対している構図です。何も起こらない、と言うことはおそらくないように思いますので、国慶節中の衝突、そして相場のリスクオフには十分に気をつけたいところです。
それから、先日セミナーでも質問を受けたのですが、これから香港の金融人材は日本に流れてくるのか?と言うことがたびたび紙面を賑わしております。
これについては、香港関係者(例えば弊社の香港社員や、香港駐在員)からは難しいのではないか、それは税制面と言うよりも、言語面での苦労が予想されるからではないかという指摘があり、私もそのように考えています。
先日、香港の活動家12名を乗せた船の行き先も台湾でしたし(船は途中で中国海警に拿捕されてしまいましたが)、今後も香港の人材は、基本的には、中国語圏、または英語圏に流れていくのかもしれませんね。
さて、本日はここまでとなります。
引き続き注目度・影響度の高い、中国本土・香港の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っておりますので、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
それでは、またの機会にお会いしましょう。
戸田裕大
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<参考文献・ご留意事項>
South China Morning Post
https://www.scmp.com/business
Investing.com:為替レート及び 各種株価データ
https://www.investing.com
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。