こんにちは、戸田です。
香港シリーズ、第13話は「最新の香港情勢と、ドル安の影響を受ける東アジア通貨」でお届けいたします。
本記事では、発表された報道や現地の声、公表された経済データなどをもとに、香港の最新の情勢について迫っていきます。中国や香港とのビジネスや投資、人民元や香港ドルなど東アジア通貨を売買する際の参考にして頂ければ幸いです。
それでは、本題に入っていきます。
目次
1.強化される取締り
2.人気の香港保険商品の販売減少
3.為替相場
4.おわりに
1.強化される取締り
さて、本年の6月30日、香港・国家安全維持法が制定されて以降、香港での民主派取締りの動きはますます強化されています。本シリーズでも取り上げましたが、Apple Daily を運営する起業家のジミー・ライ氏、日本語が堪能な民主派のアグネス・チョウ氏などが逮捕されたことは記憶に新しいと思います。
さらにここ一週間で、香港民主派議員のラム・チュクテン氏など16人が逮捕されました。ラム・チュクテン氏は昨年の大規模なデモにおいて、警察の実弾使用の責任を追及したようで、今回の逮捕は警察権力による報復とも見られています。
また台湾に向かって亡命を目指していた香港の活動家ら12人が海上で中国海警により拘束されました。香港内に留まっても、国外に逃亡しようとしても、どちらも犯罪者扱いとされ逮捕されている現状が浮き彫りになっています。
それから、日本ではあまり報道されてない内容ですが、国有コンビニエンスストアの「VanGo」が反政府的なタブロイド誌のApple Dailyの販売を金曜から差し止めているようです。Apple Dailyは既に逮捕され、保釈されている有名な起業家のジミー・ライ氏が運営していることで知られている、香港第二位の部数を発行する大手新聞社です。 さらにジミー・ライ氏、それからApple Daily社の役員のCheung Kim-hung氏らの香港HSBC銀行口座やクレジットカードが凍結されたようです。HSBCはもともと香港・国家安全維持法を支持していますが、より一層、中国よりの立場が鮮明になってきた印象を受けます。
ますます中国本土の影響が強まっている、これが香港の現状かと思います。
2.人気の香港保険商品の販売減少
さて、本日は香港の保険商品について触れていきたいと思います。なお私が保険商品を販売する意図は一切ございませんので、ご安心ください(笑)。
読者の皆さんは香港の保険商品について聞いたことがありますでしょうか?
香港には日本とは異なり、様々な保険運用商品が販売されています。例えば米ドル建てや、香港ドル建てで販売されており、状況にもよりますが長い間、預けていると将来に2倍や3倍になって返ってくると言う商品設計のものです。
これが中国本土の方に大変人気でして、私も一度、個人的な興味で、香港に足を運んで米ドル建ての保険商品のレートを提示してもらったことがあります。一見すると非常に高利回りに見える商品が並んでいまして、魅せ方(商品の設計)が大変にお上手だなと言う印象を受けました。
その人気の香港保険商品ですが、新型コロナウイルスの影響下において、中国本土からの旅客が大幅に減少、今年の上半期は、昨年の上半期対比で24%の売り上げに留まってしまっています。保険商品の販売は対面が義務付けられているようで、旅行者が減っていることから、金融商品の購入者も減って、保険会社は踏んだり蹴ったりという状況が続いているようです。
一方で香港ドル預金そのものは、増加傾向にあるようです。HKMA(香港の中央銀行)によれば、7月は24件のIPO(新規株式公開)があり、新規マネーの流入が続いていることが主因のようで、前月比2.4%の香港ドル預金増加となったようです。
こう言ったことから、為替は香港ドル高圧力が引き続き優勢となっていまして、HKMAは引き続き香港ドル売り、米ドル買い介入で市場の安定化を図っています。
3. 為替相場
さて、為替市場ではドル安傾向が鮮明になってきています。米国の大規模な量的緩和、それから低金利政策が主因と考えられますが、こう言った純粋なドル安が、香港ドルや人民元、日本円と言った東アジア通貨に直接的に効いているように思います。
以下は年初来の東アジア通貨の値を100として作成したチャートですが、(他通貨に対するドルの相対的な強さを示した)ドルインデックスの下落と共に、ドル円、ドル人民元も下落していることが見て取れます。
またドル香港ドルはドル安の中でも、為替介入を繰り返して、人為的に相場を安定させていることがよくわかると思います。
ですから、このままドル安が進んでいく場合には、どこかの地点では、香港ドルが耐えきれなくなる可能性があるのではないかと思っています。要はドル売り香港ドル買いが、いつか実を結ぶかもしれないというトレードアイデアです。
また日本円は安倍総理が辞任するなど、政治の不透明性が増していますので、アベノミクスの巻き戻しによる円高が意識されるところです。現在は106円前後まで戻してきましたが、様子見が強まるのではないでしょうか。
人民元については、本シリーズでも触れておりますが、ドル安・人民元高傾向が鮮明になってきました。人民元は特徴として一方行に行きやすい点が挙げられますので、基本的にはトレンドフォローが望ましいと言えるでしょう。
4. おわりに
さて11月3日の米大統領選を睨みながらの相場に変わりはありませんが、安倍総理が辞任するというビッグニュースもあり、相場の不透明感はますます高まっています。
ここからの1・2ヶ月は、相場が政治絡みで大きく動く展開が予想されますので、いつも以上に政治ニュースにアンテナを立てて見ていこうと考えています。
さて、本日はここまでとなります。
引き続き注目度・影響度の高い、中国本土・香港の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っておりますので、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
それでは、またの機会にお会いしましょう。
戸田裕大
【インタビュー記事】
【過去記事】
<参考文献・ご留意事項>
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/
South China Morning Post
https://www.scmp.com/business
Investing.com:為替レート及び 各種株価データ
https://www.investing.com
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。