こんにちは、戸田です。
香港シリーズ、第11回は「ジミーライ氏の逮捕とNext Digital株の急騰」でお届けいたします。
また後半部分では米国が香港製品をMade in China表記へと変更する意図や、トランプ大統領の香港に対する見方にも言及していますので、中国や香港とのビジネスや投資、人民元や香港ドルを売買する際の参考にして頂ければ幸いです。
それでは早速、本題に入っていきます。
目次
1.ジミーライ氏の逮捕とNext Digital株の急騰
2.Made in China
3.おわりに
1.ジミーライ氏の逮捕とNext Digital株の急騰
香港では国家安全法を根拠として著名人が続々と逮捕されていることについて、本シリーズの第10回で言及しました。その中でも特に市民への影響度の大きかったのが、ジミーライ氏の逮捕で、様々な社会現象を引き起こしています。
ジミーライ氏は、香港の有名な実業家です。生まれは中国の広東省、香港から近い華南地域の出身の方で、12歳の時にボートで香港に渡ったそうです。ジミーライ氏が12歳の時、それは1960年で、香港は依然英国領であり、中国内地との格差も大きかった時分でしょうから、香港ドリームを夢見ての渡航だったのでしょう。
その後、工場での勤務を経て、1981年にアパレルブランドの「Giordano」を創設します。ライオンを象った刺繍が有名なブランドで、読者のみなさんもどこかで一度はみたことがあるロゴと思います。
そしてジミーライ氏は1995年に「Apple Daily」という大衆向け、反政府、民主寄りの新聞を出版します。この日刊新聞は順調に拡大し、2019年時点、香港で二番目に読まれる新聞となりました。
罪状は個人的な民主化運動への参加、及びメディアも駆使して体制批判を行ったことと推測されます。先週、ジミーライ氏は、香港警察により逮捕されました。
そしてApple Dailyのオフィスにも約200名の警察が調査に入りました。この時、少なくとも段ボール30箱分以上の取材書類、ハードディスク、ビデオ等が没収されたと伝わっています。
これを受けて、香港市民はむしろApple Dailyの購買活動を活発化します。露天の新聞を早朝2時の発売と同時に纏め買い、知人友人へと配る方も現れたそうです。ジミーライ氏の2人の息子や会社の取締役も保護観察処分とされていることも、民主派の行動に火をつけたようです。
Apple Dailyではもともと1日に7万部を刷っていたようですが、現在は1日に55万部を刷っているようです。ウェブサイトへのアクセスもおそらく急増しているものと思われます。
これを受けて Apple Dailyの親会社であるメディア会社「Next Digital」の株が急騰しました。しかし現在は大分売り戻され、1株=0.37香港ドルで推移しています。
香港株を触ったことがある方はイメージがつきやすいと思うのですが、流動性は潤沢ではないです。そのため個別株に関してはかなり値が飛びやすいと想定されます。お取引される方はお気をつけください。
なおApple Dailyですが、こうして警察が急に新聞社に訪れて、取材資料等を没収することは法律に抵触しているのではないか?として現在調査を進めており、必要があれば法的措置を取るとしています。
これがここ1週間で最も注目されたニュースです。香港の民主派と、政府との関係はますます悪化していると言えると思います。
2.Made in China
それから、米中貿易摩擦関連でも動きがあります。
米国は香港から米国への輸出品に対してMade in Hong Kongではなく、Made in China表記を義務付けることを決定しました。これは2020年9月25日以降、適用となります。
第一段階では、あくまでMade in China表記だけを義務付けるのですが、本件が意味するところ、それは米国が対中関税に適用している税率と同率の税率を、将来的に香港にも課す可能性があるという一種の警告であると思っています。
こう言った動きをうけて、米国企業の香港撤退が加速しそうな状況になってきました。米国の在香港商工会議所の発表によれば、在香港の米系企業154社に対してアンケートを行ったところ、60社が香港からの撤退を検討しているようです。
このような香港を取り巻く状況について、トランプ大統領はFOXニュースのインタビューにて以下のような発言を行なっています。
トランプ大統領:香港が自由な香港であり続けるために、米国は多くの支出(おそらく自由を維持するための防衛装備等の輸出や優遇措置を指す)を行なってきた。しかし今、米国はその香港に与え続けていたものを取り戻そうとしている。なぜならば香港は実質的に中国に支配されているからだ。
トランプ大統領:香港は中国の支配のもとでは成功を得ることはできない。香港の数千もの天才たちが中国の支配に反対している状況で、そこに成功はあり得ない。だれも香港でビジネスをしたいと思わなくなる。
ますます米国と中国、それから香港との関係は悪化していくことが想定されます。
蛇足にはなりますが、氏の発言の「香港の数千もの天才たち」と言う箇所に、個人的に強く共感するところがあります。
私は、中国の金融の中心地、上海は陸家嘴(ルージャーズイ)で4年働きましたが、香港のセントラルの人材はさらに数段、洗練されていると言っても過言ではないと思っています。これは香港に出張するたびに感じることですが、真に金融で成り立っている国の金融マンであるとひしひしと感じます。
中国人の方と話していると、やや香港をみくびるような、そう言う方が多いのですが、人材の流出は、香港の今後の発展に大きく影響するのではないでしょうか。
3.おわりに
兎にも角にも、米中関係、米港関係はますます激化しています。為替や株などの金融市場はやや夏枯れ感が出て、小動きが続いておりますが、地殻変動といいますか、世の変化は止まらずに動いている状況と言えます。
11月初旬の米大統領選を控え、市場は様子見の動きが強まるかもしれませんが、政情の変化には感度高く注目しておきたいところです。
さて、本日はここまでとなります。
引き続き注目度・影響度の高い、中国本土・香港の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っておりますので、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
それでは、またの機会にお会いしましょう。
戸田裕大
【過去記事】
<参考文献・ご留意事項>
South China Morning Post
https://www.scmp.com/business
Apple Daily
https://hk.appledaily.com/
ジミーライ氏の出生について
https://en.wikipedia.org/wiki/Jimmy_Lai
Investing.com:為替レート及び 各種株価データ
https://www.investing.com
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。