2019年のマーケットの主役は、ポンドであった。2020年も引き続き、主役を引き渡すつもりはなさそうである。
そこで早速、最新のポンドを取り巻く注意点をまとめてみたい。
▼注目点①:夏季予算案
▼注目点②:隠れ失業者
▼注目点③:Brexit交渉
▼ポンド見通し
注目点①:マイナス金利導入されず
伝統的に英国の予算案と予算報告書は、春と秋に発表される。しかし、今回はパンデミックで傷んだ経済の立て直しが急務ということで、7月8日にスナック財務相が総額300億ポンド+の夏季予算案を発表。
https://www.gov.uk/government/news/summer-statement-delivers-plan-for-jobs-in-scotland
主な対策の内容は、
①給与保証 90億ポンド
②従業員解雇を避けるためのボーナス制度 94億ポンド
③VAT税カット 41億ポンド
④住宅購入時の印紙税カット 38億ポンド
⑤環境保護 11億ポンド
⑥ホスピタリティーセクター救済策 5億ポンド
⑦若年層雇用対策2つあわせて37億ポンド
⑧インフラ整備 56億ポンド
⑨文化芸術支援 12億ポンド
となっており、今後一気に悪化すると思われる「失業者対策」「労働市場救済」がメインであった。
注意すべき点:
今年3月の本予算、そして7月の夏季予算案と、政府の財政事情は危機的な水準にまで悪化してきた。既に来年以降の増税は避けられそうにないが、それでもやり方を間違うと財政破綻リスクが台頭するという分析を、財政専門のシンクタンクがしている。
2024年の次期総選挙に近づけば近づくほど、保守党は財政再建への着手が難しくなるため、今後の格付け変更には十分すぎるほど気をつけたい。
注目点②:隠れ失業者
ロックダウン解除以降、この国で最も問題となっているのが、賜暇(しか)労働者問題である。統計局の計算では、現在の英国の賜暇人口は900万人を超えており、これは労働者の4人に1人に当たる。
このチャートは、英統計局が7月16日に発表した「コロナウィルスが英国経済へ与えたインパクト」という報告書に載っていたもので、業種別の賜暇割合(水色)を表わしている。
※賜暇:furlough leave。雇用者側の都合で与えられた(無給)休暇
出典: 英統計局
https://www.ons.gov.uk/businessindustryandtrade/business/businessservices/bulletins/coronavirusandtheeconomicimpactsontheuk/latest
黒い★をつけた「ホテル・飲食サービス」「アート・エンタメ・レクリエーション」の労働者の半分以上が、賜暇状態であることがわかる。
注意すべき点:
英国政府は、給与保証制度を10月末まで延長した。問題は、11月からの失業率が一気に悪化するリスクと、この国は背中合わせであり、早急になんらかの対策が求められる。
注目点③:Brexit交渉
7月24日に5回目の追加交渉を終えたEUと英国。そこでわかったことは、Brexit交渉は合意から程遠いということであった。次の交渉は、8月17日からとなっているが、最悪の場合は9月も交渉継続となるかもしれない。
注意すべき点:
英国に住んでいて感じるのは、政府は合意なき離脱を前提に動き始めているのではないか?という疑問である。既にイギリス南部のドーバー海峡近くに、関税業務用施設を建設するための広大な土地を購入していることも報道されている。
最後の最後で、合意となる可能性は当然残っているが、私自身は合意なき離脱を受け入れる覚悟をしている。
ポンド見通し
EU復興基金合意を受け、ユーロ/ドルが大きく上昇。その後を追うように、ポンド/ドルも上昇している。1つの欧州通貨が上昇すると、他の欧州通貨も「連れ高」となることは、よくある。
他のポンド・ペアの動きをチェックするため、ポンド関連週足チャートを並べてみた。上段がポンド/ドル、ポンド円。下段がユーロ/ポンド、ポンド/スイスフラン。200週SMAを青で表示。
ポンド高となっているのは、上段のポンド/ドルとポンド円。下段のユーロ/ポンドとポンド/スイスフランは、ポンド安傾向が強い。
ユーロへの連れ高で、ポンド/ドルだけを見ているとやけに元気良く見えたが、ポンド・クロスでは苦戦していることが分かった。
それでは、ポンドの実力を表わすポンド実効レートを見てみよう。
出典: 英中銀
https://www.bankofengland.co.uk/boeapps/database/fromshowcolumns.asp?Travel=NIxAZxSUx&FromSeries=1&ToSeries=50&DAT=RNG&FD=1&FM=Jan&FY=2018&TD=31&TM=Dec&TY=2025&FNY=Y&CSVF=TT&html.x=66&html.y=26&SeriesCodes=XUDLBK67&UsingCodes=Y&Filter=N&title=XUDLBK67&VPD=Y
春からずっと下降チャネルの中に入っており、7月23日時点でチャネル上限に達している。これが上に抜け、ユーロ/ドルも更に上昇するのであれば、ポンドも対ドルでポンド高になるのだろう。
ただし、個人的には、ユーロ/ポンドの0.9140あたりから上でポンド取引をして、いい思いをしたことがないので、自分的にはポンドはしばらく静観を決め込もうと思っている。
ひとまず目先のポンド/ドルのターゲットとしては、200週SMAが通る1.29と言ったところだろうか?
元外銀ディーラー
松崎 美子(まつざき・よしこ)氏
1988年に渡英、ロンドンを拠点にスイス銀行・バークレイズ銀行・メリルリンチ証券で外国為替トレーダーとセールスを担当。現在は個人投資家として為替と株式指数を取引。ブログやセミナーを通して、”ロンドン直送”の情報を発信中。