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大型IPOと新ハンセン指数が香港ドルに与える影響「日本人の知らない香港情勢」戸田裕大

日本人の知らない香港情勢

こんにちは、戸田です。

香港シリーズ、第8回目は「大型IPOと新ハンセン指数が香港ドルに与える影響」でお届けいたします。

香港ではアントグループのIPOプロセスが進み、テックジャイアント企業に特化したハンセン指数が設置されるなど、金融市場に新たな動きがみられています。そこで本日は改めて香港ドルを取り巻く環境について確認し、香港ドル相場への影響を考察していきます。

目次

1.米ドルと香港ドルの金利差
2.今後の香港ドル相場について

1.米ドルと香港ドルの金利差

まずは香港ドルを分析していく上で重要な米ドルと香港ドルの金利差を確認していきましょう。以下のチャートをご覧ください。

f:id:gaitamesk:20200728075636p:plain青色ライン:3Mの香港ドル金利から3Mの米ドル金利を減算した数値
黄色ライン:USD/HKDのレート推移
青色サークル:金利差が0%、為替レートが7.80のニュートラルな状態

7月に入って香港ドル金利が低下した事を主因に、米ドルと香港ドルの金利差は縮小し、その差は0%に近づいています。しかし、USD/HKDの為替レートは引き続き7.75で張り付いています。

昨年、米ドルと香港ドルの金利差が縮小した局面では、キャリートレードの旨味がなくなったことから、為替レートは中銀が定める7.75―7.85のレンジの中心に位置する7.80付近に収まっていました。しかし現在は7.75で張り付いていることから、引き続き米ドル安、香港ドル高方向にプレッシャーが掛かっていることが読み取れます。

これについて、米国の金融緩和に伴う米ドル安圧力に加えて、中国本土から香港への資金流入が増えているのではないか?と言うことが囁かれています。そこで次に香港を舞台に、現在どのような金融イベントが発生しているのかを確認しましょう。

①アントグループなど大型中国企業の香港進出が増加

過去のシリーズでもふれていますが、米国と中国の対立が深まり、米国がおそらく中国企業を主なターゲットとして米国株式市場への上場基準を厳格化したことから、中国企業の香港上場を目指す動きが加速しています。その中でも最大の注目を集めているのが、アントグループの香港上場を目指す動きです。

アントグループ、ご存知でしょうか?

f:id:gaitamesk:20200728075816p:plain

アントグループは、アリババ社から派生した金融サービスグループです。代表的なサービスが仕付宝(中国語はチーフーバオ、英語はAlipay)と呼ばれる決済サービスのアプリで、日本で言えばPayPayのようなサービスです。

しかしこのアプリ、単にチャット機能にとどまりません。実は世に出回っているアプリ機能の大部分をまるごと搭載しているのです。

例えば私が上海から東南アジアに近い広州に出張に行く場合、この仕付宝を携帯にインストールしておけば、財布は必要ないです。航空券および鉄道券の予約と支払い、ホテルの予約と支払い、業務用の連絡、コンビニエンスストアでの支払い、食事の精算・割り勘など全て仕付宝で行うことが出来ます。

また仕付宝は特に金融サービスに力をいれており、個人法人を問わず手数料無料で送金が可能となるほか、個人の信用情報を元にした融資、様々な商品にアクセス出来る投資サービスを展開し好評を得ています。悲しいことに、私もいちユーザーとして信用情報をスコアリングされておりますが、「信用良好」と表示されておりますので、問題ないと強く信じています。

さてアントグループですが、ラウンドCと呼ばれる資金調達において、既にその時価総額が1,500億ドルに達している実は世界最大の非上場企業です。中国14億人の決済を握っているからこその評価額と言えるでしょうし、それゆえにIPOには非常に注目が集まっています。

アントグループは、米国と中国の対立がなければ世界最大の米株式市場へ上場し、世界最大の資金調達を目指す可能性もあったわけですが、現在の米中関係を踏まえ香港に上場を目指しています。なお上場した場合の評価額は2,000億ドル前後になると言われており、香港の株式市場にとっても非常に大きな歩みとなりそうです。

以下に米国・中国・日本・香港の株式市場の時価総額をグラフにして並べてみましたのでご覧ください。

f:id:gaitamesk:20200728080218p:plain

アントグループが香港に上場すると茶色の香港の棒グラフに+200加算されるイメージです。米ドルと香港ドルの金利差が縮小しているにも関わらず、香港ドル高が進んでいる背景には、このような大型フローを想定して投資家が先んじて動いていることも関係しているのではないでしょうか。

今後も大型の中国企業が米国から香港に移ってくることが想定されますので、香港株式市場が日本の株式市場の時価総額を超えてきそうな状況と言えます。

さらに香港は本土とは別の特別行政区ですが、それでも一つの中国として国力を考えるのが妥当であると思います。そう考えると、このグラフの赤色と茶色は本来加算して考えるべきです。

米国だけでなく、現在多くの先進国が対中関係に頭を悩ませています。これは、中国の経済力が日に日に高まり、影響力が高まっているからこそ、様々な議論を巻き起こしているのであろうと、改めてこのグラフを作成しながら感じたところです。

②新しいハンセン指数

さらに香港は7月27日、近年のテック企業の台頭を踏まえて、新しい株式指数を作成しました。その名もThe Hang Seng Tech Indexでこの指数の中にWeChatで有名なテンセント、アントグループの親会社であるアリババなど合計30のテックジャイアント企業が組み込まれました。

今後は香港のファンドがThe Hang Seng Tech Index ETFを作成し世界の投資家に向けて販売を行うことが想定されます。中国本土への投資はまだまだハードル高いですが、香港を通じて中国のテックジャイアントに分散投資可能とあれば魅力的に感じる投資家も多いのではないでしょうか。これもまた今後の香港ドル高材料の一つとなるでしょう。

中国は、本土には科創板、香港にはこの新しいThe Hang Seng Tech Indexを設置し、米NASDAQに対抗する構えなのでしょう。ますます米中の金融覇権を争う戦いは熱を帯びてきていると言えそうです。

2.今後の香港ドル相場について

今後の香港ドル相場ですが、引き続き金利差と値動きの関係に注目していくのが基本戦略となります。中国企業の香港への上場が続くこと、The Hang Seng Tech Index ETFへの投資が増えていくことを踏まえると、ある日突然、香港ドル切り上げという可能性もあり得ると思いますので、香港ドルロングを一つのトレードアイデアとして頭にいれておいてよいと思います

また本シリーズの第7回でご案内しましたが、米国が真剣に海外の、特に香港の金融機関に対する制裁を検討しているように見受けられます。香港へのドルローンを止めるような動きが出れば、香港市場でドル不足が発生し、一気にドル高に反発する可能性もあると思います。一方で、香港側が自らドルペッグを外して人民元ペッグにすることを発表すれば、価格は人民元側(1USD=7.00CNY)に引き寄せられる可能性もあります。ここは正直に読みづらいところです。

現在は非常に安定している香港ドルですが、本シリーズの調査を通じて、その実情は非常に不安定のように思います。引き続き調査をすすめますが、流れに逆らわない香港ドルロングを基本戦略としつつ、米国の対応とそれに対する値動きを追っていく所存です。


さて本日はここまでとなります。

なおこういった状況でございますので、香港に口座をお持ちの個人、それから法人のお客様は十分にご注意ください。引き続き注目度・影響度の高い、中国本土・香港の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っておりますので、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

それでは、またの機会にお会いしましょう。

戸田裕大

【過去記事】

<参考文献・ご留意事項>
The Hong Kong Association of Banks:HKD 3M Hibor
http://www.hkab.org.hk/DisplayInterestSettlementRatesAction.do

Iborate.com:USD 3M Libor
http://iborate.com/

Investing.com:USD/HKD spot rate
https://www.investing.com/currencies/usd-hkd

世界銀行:国内上場企業の時価総額
https://data.worldbank.org/

株式会社トレジャリー・パートナーズ 代表取締役 戸田裕大 (とだ・ゆうだい)氏
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。