トランプ再選と相場の行方はワクチン次第!?
あのトランプ米大統領がマスクを着用し始めた。それは、明らかに11月の米大統領選に対する焦りの表れであろう。かねてより、米国内でもニューヨーク州やハワイ州など、マスク着用率が高い州ほどコロナウイルスの感染者数が減少しているという事実はデータの上でも明らかであった。むろん、マスク着用の有無だけが重要なのではなく、マスクをきちんと着用する人というのは外出時に他人との社会的距離を保ったり、外出そのものを控えようとしたりする理知的、理性的な人が多いという点がより重要なのである。トランプ氏としても、そうした人々を敵に回して平然としていられるほどの余裕はなくなってきているということなのであろう。
それもそのはず、先に米紙ワシントン・ポストとABCニュースが7月上旬に実施した米大統領選の世論調査では、バイデン前副大統領の支持率が55%とトランプ氏の40%を大きく上回ることとなった。時の経過とともに両者の支持率の差が拡大しているのは、やはり米国内の少なからぬ地域で新型コロナへの感染が再拡大を続けているという事実が大きく影響していると見られる。
むろん、黒人男性暴行死事件をきっかけとして全米に拡がった人種差別抗議デモへのトランプ氏の対応が「米大統領としての資質に欠ける」との印象を多くの人々に抱かせたことも大きい。まして、抗議デモをけん引したのは主に白人や若者であったとされ、それはトランプ氏にとって非常に手痛い。まだ本稿執筆時点には明らかとなっていないが、近く発表見込みの民主党副大統領候補にインド人の母とジャマイカ人移民の父の間に生まれたカマラ・ハリス上院議員が選出されれば、ますますバイデン新大統領誕生の可能性が高まるのではないだろうか。
もっとも、数ある論評のなかからは「ワクチンの開発状況次第でトランプ氏の支持が盛り返す可能性がある」との声も聞かれる。問題は「ワクチン供給の可否が11月までに判明するかどうか」ということになるのかもしれない。
そのワクチン開発については、ここにきて幾つかの臨床試験結果に基づく有望なデータが示され始めており、そのことが米国を中心に世界の株価を力強く支えるといった状況にもなっている。仮に、有効なワクチンの供給が年内いっぱいまでに始まるとすれば、これまでに市場が前提としてきた来年以降の企業収益の急回復が現実となる可能性は十分にある。
加えて、昨今は「コロナ禍が加速させている世界の人々の購買行動の変化は一時的なものでなく、それは押しなべて米国のGAFA+Mをはじめとした世界のIT・ハイテク企業の収益にとって追い風になる」との見方も広まり始めている。
結果、総じて目下の市場のムードはリスク選好の色合いを濃くしている。その結果、外国為替市場ではリスク選好のドル売りと円売りが同時に優勢となっているわけであるが、一方で米金利が依然として低位での横ばい推移を続けていることからドル売りの方が円売りに勝ることで、どちらかと言えばドル/円を下方に向かわせる圧力の方が強まりやすくなっている。
米金利については、米連邦準備理事会(FRB)が「2022年末まで実質ゼロ金利政策維持」としている以上、当面は上値が重いままと見ておかざるを得ない。FRBの姿勢を大きく転換させるものがあるとすれば、それもワクチン実用化の話題ということになると思われる。
ただし、他方でドル/円はユーロ/円や豪ドル/円などのクロス円が強含みで推移していることに下支えされている部分もあるという点を見逃すことはできない。端的に言ってしまえば、ユーロや豪ドルなどの強気は世界の景気回復期待が背景にあり、そこにもワクチンの開発・製造・供給期待というものもある。
もちろん、ユーロに関しては先に行われた欧州連合(EU)首脳会談で7500億ユーロの規模の復興基金の創設案が合意に至ったという強気材料もある。結果、ユーロ/ドルが3月高値の1.1495ドルを上回ってきていることや、一目均衡表(週足)の遅行線が週足「雲」をクリアに上抜けてきたことなどは、強気のシグナルとして無視できない。
また、対円での豪ドルに関しても足下でテクニカルに買われやすくなる値動きが見られており、場合によっては一段の上値余地を探る展開となる可能性が生じている。実際、執筆時の豪ドル/円は一目均衡表の週足「雲」をついに上抜ける格好となってきており、このままクリアに上抜けて6月高値の76.79円を上抜ければ、中期的に80円処を意識した展開となる可能性もあると見られる。
つまり、ドル/円に関してはリスクオンの円売りとクロス円の下支えが綱引き状態となって、結局のところ上にも下にも大きく動きにくいという状態が相変わらず続いているということになる。繰り返すが、米金利が低水準のままでリスク選好のドル売りが進めば、ドル/円は執筆時において下値を支えている106.70円処を下抜けて一旦は106.00円処を試す可能性があると見る。むろん、米金利を強含みにさせるような話題が飛び出して来れば、話はまったく別となる。
一方、ユーロ/ドルについては目先、EU復興基金案の合意で一旦「材料出尽くし」となる可能性がある点に留意しておきたい。実際、このところの上げ方はかなり急ピッチだった印象が強い。短期的にも調整含みとなれば、少なくとも1.1500ドル処まで、場合によっては1.1400ドル近辺まで下値を試しに行ってもおかしくはないものと思われる。
田畑 昇人 氏
大学3年生からトレーディングを始め、僅か50万円を9ヶ月で1000万円に増やしたトレーディング力が注目され、東大大学院在学中にメディア出演し、話題に。
FXに出会って相場の世界に足を踏み入れたことをきっかけに個人投資家として活躍するようになる。
書籍も発行されており、「東大院生が考えたスマートフォンFX」10万部・「武器としてのFX」2.5万部など、それぞれベストセラーとなっている。FX初心者から上級者までを対象とした「田畑昇人公式FXブログ」を随時更新している。