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最新の香港情勢と米国の制裁外交がもたらした変化「日本人の知らない香港情勢」戸田裕大

日本人の知らない香港情勢

こんにちは、戸田です。

香港シリーズ、第7回目は「最新の香港情勢と米国の制裁外交がもたらした変化」でお届けいたします。現在の香港情勢や米国が新たに制定した香港自治法案を読み解き、今後の金融市場への影響を考察していきます。

投資やビジネスのご参考にして頂ければ幸いです。

目次

1.最新の香港情勢
2.米国が制定した香港自治法案の詳細と影響
3.今後のシナリオ

1.最新の香港情勢

まず香港では新型肺炎の感染者数が急増しており、経済活動に支障が出てきています。弊社香港社員に確認したところ、現在香港でもっとも関心の高いトピックは新型肺炎患者の急増とのことです。

以下に新規感染者の推移を添付しました。ここのところ新規感染者数が急増していることが確認できます。

f:id:gaitamesk:20200721075757p:plain

これを受けて香港政府は7月15日から以下5項目の制限を強化、適用しています。

1. レストラン・バー・カラオケなどの時間制限、人数制限、入場制限
2. マスク着用義務、4人以上の集団行動禁止
3. 図書館など公共施設の閉鎖
4. テーマパークの閉鎖
5. 在宅勤務・フレックス勤務の推奨

すでに渦中にある香港ですが、ここにきて追い討ちをかけるように、新型コロナウイルスの被害が拡大しており、今後の経済活動にネガティブに作用してくることが想定されます。


次に、各国メディアの香港退去が続いています。TikTokの香港撤退、N YタイムズとW S Jの部門移動が代表例です。TikTokは中国発の企業にも関わらず、香港撤退の判断をしたことは、非常にシンボリックな動きと言えます。

一方で仕付宝(Alipay)で有名なアントフィナンシャルグループが香港でIPOプロセスを進めているとの報も伝わっています。表現の自由が業務上必要な企業は香港を去り、中国市場ありきで進める企業は香港進出を加速させるのかも知れません。

国家安全法の制定を受けて、香港がより中国色が強まると言う大方の予想でしたが、それにしても変化が早いです。中国政府の対応が早いので、各企業も急な対応に迫られていると言うのが実態かも知れません。


それから先週行われた民主派予備選にて61万人を超える住民が投票を実施しました。民主派予備選は9月に行われる本選挙において香港民主派の共倒れがおきないよう立候補者を絞る目的で行われた予備選挙です。

居民が約700万人、有権者数が約400万人とされる香港において61万人が予備選挙に参加したことは大きな民意が反映されていると思います。

予備選挙の実施を踏まえて香港のキャリーラム行政長官は、3つの問題点を指摘しました。一つ目が予備選挙そのものが9月の選挙に対する公平性を欠いていること、二つ目が新型肺炎の状況下における50人以上の集団行動制限(現在は4人以上)に違反していること、三つ目が予備選挙が国家安全法に対する改革運動であるならば、それそのものが法律違反であることです。

政府と多数の民意がぶつかり合っている現状を踏まえると、残念ながら現段階においては香港の成長力について疑義が生じていると言うのが筆者の考えです。

2.米国が制定した香港自治法案の詳細と影響

本シリーズで特に注目して追ってきました米国による香港自治法の改正草案ですが、超党派で上下院を通過したのち、最終的に14日にトランプ大統領が署名をし、大統領令が発令されました。

法改正による影響は幅広いのですが、特に金融市場に影響の大きい、海外金融機関に対する制裁について見ていきます。

以下10項目が、英中共同声明、もしくは香港基本法の義務に違反する人々と取引を行った海外銀行に対する制裁です。近日中に米国政府が作成する報告書に記載のある海外の金融機関に対して1年以内に少なくとも下記5項目以上の制裁が科されることとなります。

1. 米国銀行からのローンとクレジット貸しの禁止
2. 米国債のプライマリーディーラーの廃止
3. 米政府資金の保管の禁止
4. 米国管轄地における外国為替取引の禁止
5. 米国管轄地における銀行取引(送金・信用取引・支払いなど)の停止
6. 米資産を裏づけとする取引の禁止
7. 米国管轄地における貿易取引の制限
8. 米国負債や資本への投資の制限
9. 役員の制限(米国からの国外追放)
10. 会社代表に対する制裁(1-8のいづれも適用可能)

本件、日本のメディアでは、詳しく報じられていないのですが、相当に強制力のある制裁と思います。全て適用されると、米国で銀行業務が出来ないばかりか、国外でも米ドルに関連する業務に大きな支障が発生するものと想定されます。

中資系銀行がターゲットになるのか、それともH S B Cやスタンダードチャータード銀行も対象に入るのか、非常に注目が集まるのですが、仮にこれら制裁を受けたとすると、少なくとも香港においても米ドル関連の商品のファンディングコストが増加し、販売が難しくなることが想定されます。

香港で、法人個人に関係なく、米ドル運用商品や、米ドルで調達されている方は、十分に気をつけて、ご対応されてください。

3.今後のシナリオ

香港の最新情勢や、米国の香港自治法案改正についてみてきましたが、押し並べて香港情勢に対する懸念材料が多いです。そしてこれを反映するかたちで株式市場も推移しています。

以下は各国の代表的な株価指数の年初の値を100として、足元までの推移をチャートにしたものです。

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不安定な情勢を反映する形で、香港のハンセン指数だけ戻りが遅いことがしっかりと確認できます。そしてどうせ香港の中国色が強くなるのであれば、いっそ中国本土株を買おうと言う、香港の戻りが遅い分、中国株の上昇に繋がっているようにも見えます

極めて合理的で冷徹な投資家心理が垣間見えます。

事実として香港株のパフォーマンスは相対的に劣後していますし、しばらく情勢も不安定になりそうですので、筆者も香港株投資は避けようと思っています。

それから為替については、前回お伝えしている通り、HKDのキャリートレードが優勢の見方について、今のところ変化なしです。


さて本日はここまでとさせて頂きます。

香港を舞台とした金融戦争が激化し、それが金融市場に波及している様子が徐々に浮き彫りになってきているように思います。引き続き注目度・影響度の高い、中国本土・香港の情報について皆様にシェアさせて頂きたいと思っておりますので、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

それでは、またの機会にお会いしましょう。

戸田裕大

【過去記事】

<参考文献・ご留意事項>
H.R. 7440: Hong Kong Autonomy Act
https://www.govtrack.us/congress/bills/116/hr7440/text

在香港日本国総領事館:新型コロナ(その45:香港政府の防疫措置再強化)
https://www.hk.emb-japan.go.jp/itpr_ja/corona_45.html

新型肺炎チャートはGoogle社提供のものを使用

株価チャートはInvesting.comよりデータ取得し弊社作成

株式会社トレジャリー・パートナーズ 代表取締役 戸田裕大 (とだ・ゆうだい)氏
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。