目次
●5月末の混乱から1か月が経過、金融市場はその後どのように推移したか
●諸外国が対中強硬策を取る可能性はあるか
●治安が維持され、ポジティブに働く可能性はあるか
●今後の注目点と、メインシナリオ、リスクシナリオ
●5月末の混乱から1か月が経過、金融市場はその後どのように推移したか
5月28日(木)、中国は全人代(日本の国会に相当)で香港の反体制活動を直接取り締まれる「国家安全法」を採択した。香港の高度な自治や独立した司法制度を保証する「一国二制度」の存続が危ぶまれたが、その後の金融市場に目立った混乱等は発生していない。
●諸外国が対中強硬策を取る可能性はあるか
香港が英国から中国に返還されたのは、1997年7月1日、この7月1日(水)の「返還記念日」を前に、6月30日(火)、中国の全人代常務委員会は「香港国家安全(維持)法」を全会一致で可決、日本時間7月1日(水)午前0時に施行した。
これまで、対中で一番の強硬策を表明しているのが米国だ。香港への機密技術の輸出の優遇措置の撤回、香港の自治を侵害した中国共産党員へのビザ(査証)の規制等だが、その効力は小さい。香港の旧宗主国である英国のジョンソン首相は、「香港住民の一部に英国での市民権の付与を認める対抗策」を打ち出しているが、こちらもインパクトは小さい。
欧州や日本は、「香港国家安全(維持)法」の施行を批判する程度で、これまで大きな制裁や対抗策を発表していない。アジアの金融センターである香港には多くの欧米企業が進出しており、対中強硬策をとることで、かえって自国(企業)の首を絞めることになりかねず、ここまで各国の制裁は穏やかなものに収まっている。
●治安が維持され、ポジティブに働く可能性はあるか
香港は、国際金融都市の名にふさわしく、もともと治安は非常に良い。昨年、中国本土から香港に逃亡した容疑者を直接中国本土に引き渡す「逃亡犯条例」をめぐりデモが拡大した。ただ、暴徒化するほど悪化しておらず、「香港国家安全(維持)法」の施行でも特段、治安や金融取引の安全度が高まることもないだろう。
●今後の注目点と、メインシナリオ、リスクシナリオ
すでに、香港の富裕層の間では、資産を香港から海外へと移す動きは静かに進行している。その逃避先となっているのがシンガポールで、非居住者の預金残高が急増しているという。独立した司法制度がなくなることで、ヘッジファンドなどもシンガポールに移行する動きが水面下で進んでいる。この程度がメインシナリオで、金融・経済への影響は極めて限定的とみる。
次に、香港でもデモが激化、米国が制裁を強化した場合、香港の金融センターとしての地盤沈下がさらに進み、資金流失は加速するだろう。さらに発生確率は低いが、仮に発生した場合、大きな影響を及ぼすリスクシナリオを提示する。デモが暴徒化した場合、かつて天安門事件を武力弾圧したように、中国は軍事介入という手段を取りかねない。
このような事態に至った場合、米国は米ドルと香港ドルのペグ(連動)の停止や、中央銀行である香港金融管理局(HKMA)への米ドル資金供給の打ち切りを発表する可能性もある。自国への影響が大きいため、あくまでリスクシナリオだが、流動性枯渇から、香港発で金融市場が大混乱に陥る可能性もある。
筆者は、ここまでの極端な展開を想定しないが、「最悪シナリオ」として頭の片隅に置いておきたい。
元HSBCチーフディーラー
竹内のりひろ氏
明治大学法学部1989年卒、以後一貫して外資系金融機関で為替 /金利のトレーディング歴任。専門はG7通貨及び金利のトレーディング。1999年グローバル金融大手英HSBCホールディングス傘下HSBC香港上海銀行東京支店入行、取引担当責任者(チーフトレーダー)を務め、現在主流となっている、E-commerce(FX.all.com)の立ち上げにも参画。
相場展望をする際、極力、恣意的な自己判断、感情移入を排除する独自のアプローチを持ち、欧州事情にも精通している。2010年に独立し大胆なトレードを日夜行っている。
メルマガSmartLogicFXでは、ファンダメンタルズ、テクニカル分析に基づいたリアルタイムな相場観を毎日配信中