今回は「明快!テクニカルレビュー」や「チャートリーディング FX Weekly Technical Report」 などでお馴染み、株式会社チャートリーディング代表の井上義教氏にインタビュー。
中編ではロンドンから帰国後にディーラーデビューしたお話や、テクニカル分析についてお伺いしました。
▼目次
1.ディーラーデビューでのつまずき
2.大失敗事例から学んだこと
3.チャンスの時にリスクを増やす
4.テクニカル分析の重要さ
ディーラーデビューでのつまずき
井上:- ロンドンから帰って、念願の資金証券部へ配属されました。最初はバックオフィスで事務処理をしていました。先輩ディーラーが売買したチケットの処理です。10億円単位のトレードが普通で、「ディーラーのこの人達は、いったい何をもってトレードの判断しているんだろう。・・・いったい、何なんだろう?」というのが第一感でした。
3カ月後にいよいよディーラーとしてデビューしました。 ディーラーごとに業務日誌が渡されまして、書いたものはハンコを押してディーラー全員に回覧するんです。 私の日誌は、ディーラーになった日から始まっています。
新前ディーラーとして、5億円のポジションでトレードしていました。初めは1日に数回、売りと買いを繰り返す日が続きます。まさに逆張りトレードですね。 1カ月弱は順調だったのですが、その後、少し損が出てきました。 250万円のプラスから、マイナスになり、成績は回復せず一気にマイナス600万円に転げ落ちました。
このあたりのことは、書籍「FXチャートリーディングマスターブック」に詳しく書いていますが、「投げなければいけない状況なのに、投げることすらできない自分」がそこにいました。ただただ売られゆく相場を目前にして、冷静に対処することができない、自分のポジションを自分で処理できない自分を見て、私は、「ディーラー失格だ」と思いました。
忘れもしない大きな損を出し、翌日から1週間、ショックで会社を休み、その後ディーリングを再開するのですが、そこからは心機一転、トレンドに沿ったトレードに切り替えることを決意しました。周囲の勝ち続けているディーラーは、全員順張りです。「井上、そんなトレード(逆張りのポジションメイク)しとったらな、そのうち痛い目に遭うからな!」という、トレードを始めた頃に声をかけてもらった先輩ディーラーの言葉の意味が、ようやく分かったような気がしました。
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PickUp編集部: - 日誌を拝見すると・・・、トレード再開後は取引頻度が減っていますね。
井上:- はい、少し長めの相場観を持つようにしたこともあって、ポジションを数日保持し、「全くトレードをしない日」も出てきました。最終的に、トレンドに沿ったポジションを持ち続けて、この日誌の最終日には損を全て取り返しました。金額としてはそれほど大きくありませんが、とにかくその期の収益をプラスで終えることができたのは、私にとって大きな収穫でした。
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PickUp編集部: - 素晴らしいですね
井上:- 話を戻しまして、当時新人としての仕事は、朝の打ち合わせに間に合うように、前日のチャート分析を行う資料の作成を行うことでした。移動平均等のテクニカル指標の計算を、ロータス123でやっていましたね。
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PickUp編集部: - その「ロータス」って何ですか?
井上:- マイクロソフトのエクセルが登場する前に使われていた昔の表計算ソフトです。あと、システムトレードもやっていました。これは、ロータスのマクロで動く先輩トレーダーが考えたモデル(式)を計算し、シグナルが出たらトレーダーに伝えるというものでした。
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PickUp編集部: - 思っていたシストレと、ちょっとイメージと違いました・・・。
大失敗事例から学んだこと
井上:- 今回のインタビューを受けるにあたり、これが一番伝えたいことなんですが、ダメだと思ったらすぐに切らないと、損失はどんどん大きくなってしまいます。祈って相場が有利になるのであればいくらでも祈るのですが、そういう感じでもないのですよね。
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PickUp編集部: - 新人ディーラーの時に学んだ教訓ですね。
井上:- ええ。あと、「綱引きの人数の多い方」にいかに早く入るかということも重要です。
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PickUp編集部: - どういう意味なんでしょうか。
井上:- エントリータイミングのことなんですけど、相場が動きかけの時、もしくは動くかもしれない、という時に成り行き注文で相場に入る(ポジションを取る)のが大事ということです。指値注文でポジションメイクをしてはいけないと考えています。
損切りについても、一般的に「早く!」と言われますが、これでもまだまだ、「甘い」かも・・・。本当は、「損切り注文(逆指値注文)」に頼らずに、自分の判断でポジションを切らないといけないのかもしれません。 この辺をしっかり考えて、「綱引きの人数の多い方に早めに入る」ことが大事ではないかと。
また、「相場の行く末」はコントロールできないので、自分にとってコントロールできること、つまりポジションやロット、損切りや利食いをしっかりコントロールすることに集中すべきだと思います。 -
PickUp編集部: - 個人投資家の方は、指値注文を活用している方が多いと思うんですが・・・。
井上:- 指値注文でポジションメイクを行うのは、個人的には「負け組へまっしぐら」と考えています。指値注文でポジションを作ると、自分の注文が約定になった瞬間、マーケットに対して「逆張り」のリスクテイクになってしまいますよね。利食いは指値注文(逆張り)でよいと思いますが、ポジションメイクは成行注文に限ると思います。
それに、指値注文でポジションメイクを行うと、評価損を抱えることが多くなると思います。また、損切りを後回しにして評価損を引っ張りすぎると、健康に悪いですよ。全身から変な汗が出てきたりしますからね。
恐らく、評価損を抱えていると、メンタルのバランスがおかしくなるというか、冷静な判断ができなくなってしまい、損切りがうまくできなくなるんですよね。普段の自分ではなくなる、という印象です。個人投資家の方にも、そういう方は多くいらっしゃるんじゃないでしょうか。以前、セミナー会場で、「損切りができなくて・・・」とご相談に来られた方がいらっしゃいました。評価損の金額を尋ねると、「8000万」とおっしゃって・・・。 -
PickUp編集部: - おう・・・。
井上:- やっぱり、自分の判断で損切りできるくらいの金額のうちに損切るのが肝要ですね。
あと、お伝えしたいのは、「収益目標から逆算したようなポジションは勝てない」ということです。今月は1億稼ぐぞ、ということで100本ポジションを持って1円取ると決める。さて、売るかな、買うかな、では、トレード判断の順番が間違っているんですよね。まあ、皆さんやりがちだと思いますけど。ナンピンをしがちな方って、このような発想を持っているんじゃないでしょうか。自分に都合のよい相場展開を夢見てしまう。こういうトレードは、そうそう、うまくいかないんですよね。相場が自分に合わせて動いてくれるわけもないので、相場に自分を合わせないといけませんね。
FXに対しての認識が曖昧な方もいますよね。円資金を「運用」しているのではなく、取引保証金という担保をFX会社に預けて、余裕資金の中でリスクを取っているということを、まずは理解して頂きたいです。
チャンスの時にリスクを増やす
井上:- また、チャンスだと思ったら、買い乗せ・売り乗せでリスク量を増やして一気に稼ぐというのは、収益を飛躍的に伸ばす有効な方法だと思っています。
また、ベタですけど、早寝早起きはとてもオススメです。私は22時に寝て朝4時に起きる生活を続けています。夜遅くまで集中力のない状態でトレードを続けるより、早く起きてニューヨークタイムの最後の方に取引したほうがよいと思います。 -
PickUp編集部: - 冬だと寒くて布団から出れなさそうですが・・・。
井上:- 私は株式の取引もしていますので、8時45分から始まる前場に向けて準備をするうえでも、早起きするようにしています。人によるかもしれませんが、スポーツ選手のように「ルーティン」を決めて、その通りに行動するとよいと思います。その方が、全体的なストレスが少ないのではないでしょうか。 そんな感じで常にスッキリした頭脳で相場を見ると、たまに「相場が見える」ことがあります。
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PickUp編集部: - 見通しが立つということですか?
井上:- ええ。朝の段階で今日の相場は売りだ、といった感じで、早々にトレード戦略が立つことがあります。はっきりと相場が見えるのは月に数回くらいですけどね。
テクニカル分析の重要さ
井上:- マーケットの先行きは、チャート以外に教えてくれるものはありません。テレビの経済番組に出演しているパネリストの予想は、そのほとんどがファンダメンタルズに基づくもので、しかも予想内容はバラバラです。これって、ファンダメンタルズでは、結局のところ、相場の予想が難しいことの現れなんじゃないかと思うんです。
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PickUp編集部: - なるほど。
井上:- 念のために言いますけど、私は、ファンダメンタルズを完全に否定しているわけではありません。
最終的に相場はファンダメンタルズに収束するんですが、ファンダメンタルズが相場に織り込まれるまでの時間と私達のトレードタームは一致しないことが圧倒的に多く、ファンダメンタルズでトレードすることはできないと割り切った方がトレードの収益率は高い、と考えています。
冷静に考えると、ファンダメンタルズだけでのトレード判断は難しいですよね。相場が動いた材料は後付けで出てきたりしますしね。
そう言えば、私が一番ショック受けた一言がありました。実に安定的に収益をあげる先輩トレーダーの言葉なんですけど、私が「どうしたらそんなに勝てるんですか?」と聞いたら「何でって・・・、ポジションを持つべきところでポジションを持っていなかったら、背中が痒く(かゆく)ならない?」と。そういう感覚をお持ちだったんです。さらに、「チャートは見なくてもビッドオファーのレートボードさえあれば勝てる」と。数字を見るだけで値動きが分かる、恐らく、この人の頭の中では、1分足から1時間足、日足のチャートが常にイメージできていたと思うんです。もう、そういう人には、私のような凡人は、絶対に勝てないですよね。 -
PickUp編集部: - 天才ディーラーを前にしたら、同じような感覚では取引できないということで、井上さんはテクニカル分析でのトレードにまい進したということでしょうか。
井上:- まあ、そうですね。
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PickUp編集部: - 井上さんの週刊レポートを拝見すると、テクニカル分析というより、ほとんど移動平均線だけで分析されていますよね。
井上:- ええ、多くのテクニカル分析を手がける必要はないと思っています。時間を使うなら、様々な種類の足や通貨ペアをチェックしたほうがよいでしょうね。
上手く喩えることが難しいのですが、1つの畑をどれだけ耕しても、作物が育つ量には限界がある。だったら、より多くの畑を耕した方がよいですよね。
移動平均線以外には、ローソク足とMACDで十分だと思います。当然、気分次第で他のものを見ることもありますが、リスクテイクの際のテクニカル分析の数を誇っても仕方がないわけです。やっぱり最終的には、値動きを追いかけるよりないわけで、値動きを見て買いかな? と思ったときに、移動平均線も見てみよう、あ、こっちも買いに傾いている、なら買ってみようか! という順番ではないでしょうか。
たくさんのテクニカル指標を見たからと言って、リスクテイクが上手くなるわけではありません。チャートをしっかり見て、真剣に値動きの方向を見た方がよいですね。
PickUp編集部より
少し長めの相場観を持ち、トレンドに沿ったポジションを持ち続けることに活路を見出した井上さん。また、テクニカルについては、多くのテクニカル分析は必要なく、時間を使うなら様々な種類の足や通貨ペアをチェックしたほうがよいと仰られていたことも印象的でした。後編では有効なトレード手法についてお話をお伺いすることが出来ました。後編も必見です。
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