毅然とした『民意』が、ハードブレクジットの可能性を高める
ブレクジットを巡る状況は大きく変化しました。ブレクジットを実現できなかったメイ政権は倒れ、「合意なき離脱」でも構わないと考えるボリス・ジョンソン氏が新首相に就任しました。
メイ政権が倒れた最大の理由は、北アイルランド国境問題を解決できなかったからです。北アイルランドとアイルランドの間に国境を設けないと決めた「ベルファスト条約」を維持しつつ、EU離脱で生じる国境管理は両立しません。
そのため、解決策が見つかるまで英国がEU関税同盟に留まると定めたのが「バックストップ」条項ですが、この「バックストップ」条項のために、英国は自らの意思のみでEUを離脱することが法的にできなくなります。「離脱協定案」が保守派から支持されないのは、この「バックストップ」条項が理由です。
しかし「離脱協定案」以外の離脱、すなわち「合意なき離脱」では英経済に多大なショックをもたらすと想定されています。英財務省及び英中銀はGDPが8%も下落すると推計しています。物流が途切れ、食品や薬の輸入に困難を来たし、日常生活は大混乱となるでしょう。そのため、多くの(約60-70%の)英議員は「合意なき離脱」に反対です。
私は、国会議員の多数が「合意なき離脱」に反対している以上、最終的にEU側と合意した「離脱協定案」での離脱しかない。よって、どんなに激論となっても「離脱協定案」でのブレクジットとなると想定してきました。その場合、売り込まれている英ポンドは大きく買い戻されることになります。
ところが、英国民は主権が制限される「離脱協定案」を徹底的に拒否しました。
保守党への支持率は極端に低下、政党支持率では第5位まで落ち、新たに誕生したブレクジット党に支持を奪われました。この毅然とした「民意」故に、議員達もどんな形であれ、ブレクジットを実現しなければならなくなっています。 ブレクジットは経済問題ではなくなりました。
「国民投票」で示された民意を実現できるのかどうか、民主主義の問題になっています。 何が何でもブレクジットを実現しなければならないので、「合意なき離脱」の可能性は高まっています。
これから離脱期限の10月31日に向けて、様々なことが起こるでしょうが、この「民意」を考えると議員たちは下手なことはできません。何が何でも10月31日にブレクジットを実現しなければならないと考えていることでしょう。
EU側と合意した離脱協定案による離脱が実現した場合、経済は大きな混乱なくブレクジットが実現し、しかも暫くは関税同盟に残ります。そうなると、ポンドは極めて割安なので買い戻されることになります。対ドルでは、現状1.2200前後ですが、1.30以上には楽に上昇するのではないでしょうか。英中銀は利上げを行うことになります。
逆に、離脱協定案以外の「合意なき離脱」となった場合、短期的にポンドは猛烈に下落することになります。英中銀等は1.00のパリティを割り込むと見ていますし、他の金融機関も同様なひどい予想を持っています。
私の相場感としては、「合意なき離脱」がいくら大変とは言え、十分予想されていることなので、ポンドは下落するでしょうが、それは一瞬で終わるのでは、と考えています。その後、急回復でしょう。現状の1.22前後でブレクジットを迎えるのであれば、1.15前後ぐらいまで下落しますが、その後1.22を超えるようなラリーになると想定しています。
慶應義塾経済学部卒。1988年ー1995年ゴールドマン・サックス、2006-2008年ドイツ証券等、大手金融機関にてプロップトレーダーを歴任、その後香港にてマクロヘッジファンドマネージャー。独立した後も、世界各地の有力トレーダーと交流があり、現在も現役トレーダーとして活躍。