こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、「負けないFXトレーダーを育てる」をコンセプトに、過去に為替ディーラーとして様々な失敗を経験してきた私が、どういった工夫をして少しずつ上達していったのか体験談をお伝えしていきます。新人ディーラー(新人の個人投資家)にありがちな落とし穴と、その対策などを通じて、読者のみなさまの実力UPの参考にして頂きたいと考えています。
第3回目は「プロはどのように相場と向き合っているのか?」です。
早速みていきましょう。
目次
1.プロの定義
一概に「プロ」と言っても、個人投資家からファンドマネージャーまで様々ですが、ここでは外国為替の職業プロ、つまり、銀行など金融機関の外為ディーラーと仮定して話を進めていきます。個人投資家の方がどのように相場を観察しているかは、TwitterやYouTubeで多く発信されていると思うのですが、金融機関の外為ディーラーがどうやって相場を捉えているのか、これが何かみなさまのお役に立つのではないかと考えました。
みなさんは「職業プロ」、すなわち金融機関の外為ディーラーはみんな凄腕と思っているかも知れませんが、実際には人によってその実力は大きく異なります。私の経験に基づけば、毎年毎年、大きな収益を計上出来る人は、金融機関でも2割に満たないと思います。
ですからテレビ等で解説しているからと言って、その人が即ち相場で勝っていると言う訳ではないのでお気をつけ下さい。これは個人投資家のインフルエンサーもそうで、収益公開などしている方もいますが、ファンドを公開させて監査でも受けない限り、効力のある実績にはならないので、あまり鵜呑みにしない方が良いです。
私たちはこのような環境下で情報収集をしているわけですが、特にお伝えしたいことは、本当に毎年毎年、資金を増やし続けている人は2割未満であると仮定した上で、その2割に満たない人たちはどうやって相場と対峙しているのか?と言うことです。実際に凄腕ディーラーをこの目で見てきた経験をもとにお話ししていきます。
2.凄腕ディーラーの特徴
一点目はとにかく洞察が深いことです。凄腕ディーラーと言っても、私たちと同じ人間ですから、能力に大きな差があるわけではありません。ただし、自分自身が注目している物事に対する洞察が他のディーラーよりも圧倒的に深いです。
外国為替相場は基本的に一方向に上がり続けるものではありませんので、人より一手先、二手先を読み、エントリーや利食いが出来るかどうかが極めて重要な能力となります。凄腕ディーラーは端的に言えば、人より一手先、二手先を読むのがとても上手です。
そしてそれは、何か突拍子のないところからくる発想ではなく、基本を限界まで高めたところからのアイデアがほとんどです。例えば今で言えば、「米国の早期利上げ」に注目が集まっていることをほとんどの方が知っていますが、それが来年の何月のFOMCで行われるのか、そのシナリオと明確な答えを持っているのが凄腕ディーラーの特徴です。
本記事作成段階(2021年7月5日)では、市場参加者の米利上げ観測の中心は2022年の後半が中心値です。しかし、凄腕ディーラーは、それが例えば2022年の前半になるとか、2023年になっても利上げが始まらないといった考えを自分なりの分析で答えとして持っていて、それに沿ってトレードをしています。
それを言語化出来る能力があるかどうかは、人によります。ただし、一般の市場参加者が見えていない将来を見通している点が凄腕ディーラーの共通点です。
二点目は胆力があることです。例えばその凄腕ディーラーと、一般ディーラーがドル円を買い持ちしたとします。そしてドル円が急落してきたと仮定します。
「もう耐えられない!」と言う気持ちは双方同じはずなのですが、いつだってフラフラしているのは、一般ディーラーです。これは値段の話をしているのではなくて、自分のポジションに対する信念の話をしています。
一般ディーラーは恐怖に飲み込まれ、自分の損失額や、相場の雰囲気に任せて損切りを執行しますが、凄腕ディーラーは自分が信じていたものが何か本当に崩れているのかどうかを判断基準に取引をします。ですから耐える時は、歯を食いしばって耐え抜きます。
これを耐えられないディーラーを業界用語で「ド底セラー」と呼び、馬鹿にされることがあります。どんなにストラテジーが素晴らしかったとしても、胆力のないディーラー、耐えきるところを耐えきれないディーラーに幸運はもたらされないのです。
損切りはリスク管理の観点から一般論として高く評価されることも多いですが、耐えるべきところでは、ぐっと耐えるのも凄腕ディーラーの特徴なので覚えておきましょう。もちろん、損切りも普通のこととして行いますが、判断基準がちゃんと自分の中に別にあると言うことです。
三点目は相場との対峙時間が長いことです。一点目にも述べていますが、人間の能力差などたかが知れているのですから、どれだけ相場に真摯に向き合えたかが、結果に直結する可能性が高いです。
例えば、私が心から尊敬するディーラーの方々は、夜の2時、3時になっても、相場がどうなっているか電話してきたり、人より早く出社してトレードの準備をしたりしていました。それだけ自分のポジションを心の底から大事にしていると言うことだと思います。
また違う視点でみれば、NY(ニューヨーク)時間の値動きを大切にしているとも捉えられます。現在も米国の金融政策に注目が集まっているように、中国が台頭してきたとはいえ、まだまだNY市場が金融の中心地です。その時間に相場と向き合うことを大切にしている人が多いのは自然なことだと思います。
3.終わりに
みなさんはどのように感じられたでしょうか?
正直に、さすがに述べたことを全部実行するのは難しいと思います。それは職業だから出来ることですので、真似するところ、しないところ、取捨選択して頂ければと思います。
例えば、兼業投資家の場合は、日中に大事な仕事があるはずですから、毎日、夜遅くまで起きているのは現実的ではないです。
ただし市場の中心がNYであることや、耐えきるべきところは耐えきる忍耐力も必要だと言うことは覚えておくと役に立つと思います。また深い洞察力を身につけることは、本業にも通じるところがあると思いますので、ぜひチャレンジされてみてください。私も日々研鑽に努めています。
中には専業にチャレンジしてみたいと考えている方もいると思います。そう言った方には、深く洞察するということだけでなく、NY時間へのこだわりも必要になる可能性がありますので、それ相応の覚悟を決めておくと良いと思います。
本日はここまでとなります。
引き続き、みなさんのレベルアップに役立つ記事を作成してまいりますので、応援して頂けますと幸いです。
戸田裕大
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代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。
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