こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、発表された報道や、公表された経済データなどをもとに、香港や中国本土の最新の情勢について迫っていきます。香港ドル・人民元などの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。
第46回は「理財商品の相互乗り入れと円安人民元高の背景」でお届けいたします。
目次
1.理財商品の相互乗り入れを年内に解禁
2.香港ドル相場のアップデート
3.人民元相場のアップデート
1.理財商品の相互乗り入れを年内に解禁
みなさん、理財商品という言葉を聞いたことはございますか?端的に言えば、中国版の投資信託のことです。
最近、中国本土および香港で話題になっているのが、この理財商品の売買を中国大陸と香港で横断して取引が出来るようになる構想です。これが「理財通」と呼ばれる構想で、早ければ年内に解禁されると言われています。
本コラムの読者は、覚えているかも知れませんが、中国は他国との金融商品の取引に制限を設けています。これは、一つには外国からの投資に国内景気が左右されないように政府がコントロールしたい意向や、中国人の資金が外国に逃げてしまうことを警戒していると考えられます。
従って、中国政府はこれまで何をしてきたかと言うと、段階的な金融市場の開放を行ってきました。中国本土と香港の間では「債券通」「ストック・コネクト」と呼ばれる債券・株式市場の接続がすでに行われており、ここに、今回新たに「理財通」と呼ばれる投資信託の接続が加わることになります。
投資信託とは、複数の金融商品を一つにまとめた金融商品ですが、本日は実際に中国で人気の投資信託、中国語で言うところの「理財商品」を一緒に見て行きたいと思います。
以下の画像は、私が中国にいた時に開設した、招商銀行の携帯アプリから24日の執筆時点でログインして画面をコピーしたものです。こちらが人気のラインナップのようで、一番左の「活期(いつでも引き出し可能な)理財」は、いつでも引き出し可能なのに、金利は驚きの3.12%です。今の日本ではありえませんね。
こちらの商品、既に613万件を超える販売実績があるようです。かなり国民生活に入り込んでいる商品であることがお分かりいただけると思います。
どのようにしてこの高利回り商品が組成されているのか、気になるところですよね。調べてみたところ、以下に、国債・地方債・社債などが主な投資先と書いてあります。ちょっと範囲が曖昧だなぁと言う気もしますが、まぁ中国らしい記述だなとも思います。
ようは、中国は社債などに投資しているだけで、3%を超える利息をお客様にお戻しすることが出来る世の中なんですね。なかなか今の我々にはなじみがないですけれども、昔は郵便局の定期預金金利が5%あったというお話もお聞きしましたから、それと同様の状況と思います。すなわち中国はまだまだ経済成長期と言うことです。
一方で利便性は当時の日本よりもすぐれており、この理財商品は決済にも使用可能で、PayPayのように支払い、残りの金額がきちんと利息を貰える、そんな仕組みになっているようです。昔の日本の高度成長の勢いと、最新のテクノロジー・ミックス、これが現在の中国の強みです。
相場への影響は現時点では読みづらいですが、「理財通」の導入で、中国本土への投資が伸びるか、香港への投資が伸びるかで、それぞれ人民元高か、人民元安かに効いてくると思います。ここは実際に運用が始まってから確認することになります。
2.香港ドル相場のアップデート
先週のドル円相場は、1ドル=109.28円からスタートしました。水曜日に仮想通貨の大幅下落によってリスクオフムードが強まると、一時108.57まで下落しましたが、その後4月のFOMC議事録が公表され、テーパリング(金融緩和の縮小)に関する地ならし的な記述が見られると、一転してドルは買い戻され109円台を回復、結局行って来いの展開になりました。週明けは、ややドル安からスタートしており、執筆段階では、108.90レベルで推移しています。
このような状況を踏まえて、香港ドルを取り巻く環境を見て行きます。
USD/HKD(米ドル/香港ドル:青色のライン)は、引き続き香港金融管理局(中央銀行)が米ドルと香港ドルの3ヵ月物金利差をほぼゼロに収まるように調節しており、その効果により横ばい推移が続いています。
HKD/JPY(香港ドル/日本円:茶色のライン)は、しぶとく14円台をキープしていますが、ドル円次第といったところでしょう。ドル円は引き続き108.50-109.70のレンジ相場が続いています。売りで仕掛けたいプレイヤーが多いと感じる、そんなチャート形状です。
ただし、都度テーパリングが意識され、そのたび、急上昇していますので、両サイド共に、値幅を狙っていくタイプの投資家は勝ちづらい相場になっていると思います。逆にレンジを上手く捉えることが出来るプレイヤーは勝ちを積み上げていると思います。
3.人民元相場のアップデート
最後に人民元を見て行きたいと思います。
USD/CNH(米ドル/人民元:青色のライン)は、引き続き6.40の直近安値の更新を試す展開が続いています。人民元の短期金利(3ヵ月2.49%)がじわじわと低下してきている点は気掛かりですが、その他の要素がすこぶる強いので、やはりドル売り人民元買いが素直な戦略でしょう。
CNH/JPY(人民元/日本円:赤いライン)はドル円の下押しもあり、先週はわずかに下落しましたが、むしろ押し目は買っていきたいと思っています。
以下のチャートをご覧ください。こちらは中国と日本の資金量を比較した表で、M2と呼ばれる預金量をGDPと呼ばれる経済規模で除しています。何をやっているかと言うと、中国の預金量が、中国の経済規模に対してどれくらい増えているかを計測して、中国と日本とを比較しています。
青いライン、すなわち日本が近年早いペースで預金量を増加させていることが見てとれます。これは黒田バズーカによる緩和資金に、さらにコロナ支援等でお金がジャブジャブになっていることを表しています。その結果、円安になったと考えればシンプルですよね。
お金を市中にばらまけば、ばらまくほどに1円当たりの価値は低下しますから、円売りポジションを持っていなければ、実質的に資産は目減りしていくことになります。
一方で中国は、今回のコロナ対策で、ある程度は資金を拠出したとはいえ、中国の巨大な経済規模からみれば、割と手堅く運営していることが見てとれます。したがって中国の預金割合は日本ほど増えていません。
ゆえに、人民元高、日本円安が加速していると考えると、私はすっと腹落ちしました。と言うことで、私はもちろん人民元買い、日本円売りを、ポジション調整しながら、しつこく続けていこうと思います。
しっかり人民元を学び、千載一遇のチャンスを捉えておきましょう。
本日はここまでとなります。
引き続き注目度・影響度の高い、香港及び中国本土の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っております。引き続き、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
戸田裕大
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<参考文献・ご留意事項>
各種為替データ
https://Investing.com
日本経済新聞:中国、香港と相互投資解禁 金融ハブ維持へ年内にも
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM106WK0Q1A510C2000000/
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。